2008年6月26日 (木)

PCBをめぐる1976年の回想 -新幹線姫路駅のPCB漏れ事故

1976年、ロッキード事件が発覚し、その容疑者邸に俳優がセスナ機で自爆攻撃したと思ったら、今度はソ連のミグ25が北海道に飛んできて不時着し、パイロットが亡命を求めたなどという、不穏な事件が次々と起こった。台風17号は、兵庫県南部で「足踏み状態」となって甚大な被害をもたらし、小学校が1週間近く休みになった(今でも「台風17号」というと、この年の災害をさすらしい)。毛沢東もこの年に亡くなった。

私は小学2年生で、子ども番組が何度も臨時ニュースに変わってしまうのを見て、子どもながらに何か陰鬱なものを感じていたのであった。

■ 姫路駅で新幹線からPCB漏れ事故

そんなとき、自分の身の回りで起きた出来事に、姫路駅付近で新幹線からPCBが漏れるという事故があった。私は雨が降ったとき、新幹線姫路駅の高架下の空き地を遊び場にしていたので、PCBが漏れる事故はまさに遊び場の頭上で起こったのだった。PCBは毒性の高い環境汚染物質である。

当時の事故を新聞はこう伝えている。

1976年(昭和51年)6月5日(土) 朝日新聞 夕刊(東京最終版)

新幹線、終日遅れ

姫路付近 変圧器のPCB流出

新幹線は5日の始発から、姫路駅を通る上下線が終日、2~5分遅れた。前夜、姫路付近で「ひかり」の変圧器がこわれて、なかにあった絶縁用のPCB(ポリ塩化ビフェニール)がこぼれ、5日朝までに回収しきれなかったため。

事故が起きたのは4日午後6時50分ころ。東京発博多行き「ひかり13号」が、通過する姫路駅の手前にさしかかったとき、13、14号車の電気系統の故障を知らせる運転台の表示灯がついた。とりあえず岡山駅まで運転、調べたところ、14号車の床下に取りつけてある変圧器がこわれ、中のPCBがこぼれていることがわかり、この列車は同駅で運転を打ち切った。

こぼれたPCBは変圧器に入っている量の2割にあたる約90リットルで、姫路駅をはさんだ約1.4キロの区間と岡山駅構内にとび散っていた。国鉄は列車の運行が終わった5日午前零時ごろから、よごれた砂利の回収やまくら木の掃除などをしたが、始発時間までに終わらなかった。このためPCBがこぼれた姫路駅構内の通過線線路をビニールで覆って、拡散を防ぐとともに、5日の同駅を通る列車は始発から下り通過線を使わず、上り通過線か停車用線路を通した。

この影響で、列車は同駅で徐行、または臨時停車したため、軒並み2~5分遅れるほか、車両のやりくりの関係で博多発新大阪行き「こだま394号」が運休する。

ビニールで覆われた姫路駅構内のよごれた砂利は5日深夜に回収される予定。

東京版なので新幹線の遅れがメインの扱いになっているが、神戸新聞など地元メディアはもっと大きな扱いだったと記憶している。漏れたPCBが90リットルとは大量である。

新幹線で東京方向から来ると、姫路駅に着く直前、すぐ左下に児童公園(南駅前町公園)が見える。この児童公園が、私たちの晴天時の遊び場所だったのだが、雨が降ると、新幹線の高架下に入り、空き地で遊んでいた。柵はあるにはあったのだが、子どもでも簡単に乗り越えられる柵であった。

高架上から伸びる雨どいから、大量の雨水が流れてくるのが面白くて、その水を使ってよく泥んこ遊びをしていたのである。幸いなことに、のどが渇いても、その水を飲んだりすることはなかった。これは当時、小学生の間で、雨水を飲むと白血病になるという都市伝説が流れていたためであった(もちろん根拠のないデマだが、このデマのおかげで、私はPCBに汚染された水を飲まずにすんだともいえる)。

ちなみに、私がよく遊んだその高架下の空き地は、いまパチンコ屋になっている。児童公園のすぐ向かいがパチンコ屋というのも妙な取り合わせだが、土地柄だろう。

このPCB漏れの事故があってからも、あほな私たちは、しばらく梅雨空の中、高架下で遊んでいた記憶がある。しばらくすると、柵がしっかりした有刺鉄線に変わって入れなくなり、雨どいも雨水に触れないように頑丈なカバーが取り付けられた。

こんな話を、同僚の環境化学の研究者にすると、肝臓を試料にくれだとか、血液を調べてあげましょうかと冗談半分で言われる。今のところ健康には異常がない。

PCBの一件はこれで終わりではなかった。

■ PCBで汚染された砕石が近所に埋められた

PCB漏れの事故があって、2年ほど経ったときのこと。夕刻、自宅にいると外がガヤガヤと騒がしい。隣町の南豊沢町の人たちが三々五々、私たちの住む北豊沢町(現在の南駅前町)の家を訪れて、こう詰め寄った。

「PCBゆう毒が北豊沢に埋められとるいう話やないか。勝手に北豊沢が了解したんか?そんなもん漏れたらこっちにも来るんやさかい、南豊沢にも言うてもらわな困るやろ」という趣旨であった。新聞記事で知ったという。

しかし、北豊沢にも初耳だったのである。「そんなもん聞きはじめや(播州弁で初耳の意)。ここらの自治会長は、Hはんや。Hはんやったら何か知っとるやろ」ということになり、南豊沢、北豊沢の人たちがそろって、ぞろぞろとHさんの家に向かったのであった。

HさんはPCBが埋められたことを知っていた。推定するに、当時の国鉄から何らかの打診があったときに、ノーと言わなかったのであろう。後日、順序が逆ながら、国鉄側のPCB埋設に関する説明会が行われたのであった。

私は小学生だったので、そんな説明会には参加しておらず、詳細な内容はわからないが、コンクリートでしっかり作って大丈夫なようにしてあるという話だったらしい。「コンクリートがひび割れ起こしたらどないするねん。ほんまに大丈夫か」といろいろ指摘があったそうだが、もう埋められているものはどうしようもなかった。

近所に、井戸を使っている家があったのだが、近所にPCBを埋めるので、念のために井戸の使用をやめてくれと国鉄が要請したと聞いた。

私は正確な位置は知らないが、PCB汚染物は姫路駅付近の新幹線高架下に埋められているらしい。

PCB汚染物は、最終処分(永久に埋め立て)ではなく、処理技術が完成するまで一時的に保管するという扱いになっている。そもそも廃棄物最終処分場でもない新幹線高架下に永久に埋めることはできない。しかし、いわゆる遮断型最終処分場と同レベルの高い管理水準、安全性が求められるのは言うまでもない。既に約30年が経過しているが、コンクリートは劣化していないか、埋め立て場所からPCBが周辺土壌に漏出していないか、非常に気にかかるところである。

腑に落ちないこともある。

PCB廃棄物を保管している事業所は、PCB特別措置法に基づき届出が義務付けられている。どこにPCB廃棄物が保管されているかは、国民に公開されていて、下記の環境省のHPから検索できるようになっている。

「PCB特別措置法に基づくPCB廃棄物の保管等の届出の全国集計結果について」http://www.env.go.jp/recycle/poly/hokan/index.html の中の「PCB保管・使用事業場検索」をクリックすると検索画面。

しかし、この環境省のHPで検索しても、新幹線姫路駅高架下に埋められたPCB汚染物が出てこないのである。PCB特別措置法における「保管」の扱いではないのか。では、いったいどういう扱いなのか。(※姫路新幹線保線区の名前でヒットするものがあるが、駅から数キロあるので場所が違う)

■ PCBが埋められていることは語り継いで忘れないようにするべき

いま、姫路駅は在来線まで高架になり、駅南の様相が30年前とまったく違ってきている。民家のあった場所がホテル、駐車場に変わり、PCBが埋められたことを知る人も少なくなってきている。

知らずに、井戸水をくみ上げて使用する事業所が出てこないとも限らない。

PCBなどは時間が経ったときの方が、漏出のリスクが増えるから、古いことほど、注意して気に留めておくべきである。

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2008年6月19日 (木)

危険なモノを正しく危険と認識できる設計、デザインが必要 小学生が校舎屋上の天窓から転落死に思う

18日午前、東京都杉並区の杉並第十小学校で、6年生の男児が3階建て校舎屋上の天窓から転落して死亡する事故が起きた。算数の授業中、屋上から教室に戻る際、男児が天窓のプラスチック製の半球型カバーの上に乗ったところ、プラスチックが割れ、さらにその下の金網入りガラスも割れて、吹き抜けを1階まで約12メートル落下した。

報道によると、天窓は直径約1.3メートルのアクリル製で、その下の金網入りガラスは厚さ7ミリ。人が乗ることをまったく想定していない設計である。

Dst0806181635013p1 共同通信が配信した写真(引用)を見ると、アクリルカバーは不透明で、真下が1階まで吹き抜けになってることをまったく感じさせないデザイン、設計である。周囲に柵もなければ、危険を知らせる貼り紙もなく、ましてや目視で危険を察知できるわけでもない。

大人でも、休憩時にもたれてしまいそうなデザインだ。

なぜこのような危険なだけでなく、危険を正しく察知できないものを、小学校校舎の屋上に設置したのだろうか。校舎の管理責任が指摘されるのは当然として、このような校舎の設計者の責任も議論されるべきである

危険なものは、それが危険であることを正しく察知できるように設計、デザインする義務がある。建築家には、危険であるにもかかわらず、鑑賞性をもたせて、美しくするために、危険を感じさせない外観に設計する人が多い。有名な建築家ほどこの傾向が強いのだが、考えを改めてもらいたい。

強度のない天窓を、人が歩く可能性のある屋上に設置するのは論外だし、小学校校舎に吹き抜けを作るのも疑問である。

私は、建物の中にある吹き抜けが嫌いで、法律か条例で規制すればよいのにと思っているくらいだ。危険であるのに、危険性をあまり感じさせないからである。

私自身、買い物中、一歳児を片腕で抱いてエスカレータに乗り、ふと気がつくとすぐ横が吹き抜けになっていて、肝を冷やしたことがある。エスカレータの横は、5、6階から1階まで吹き抜けになっていることが多い。実際、2004年6月28日には、2歳の男児がショッピングセンターアクタ西宮東館のエスカレータから吹き抜け部分に約10メートル落下し、死亡する事故があった。

建築家は、なぜか好んで吹き抜けを作るが、やめてもらいたいものである。

建て売り住宅を見に行ったときも、「吹き抜けが自慢なんです」と担当者が言っていたことがある。好みの問題かもしれないが、エアコンの効きが悪くなるし、吹き抜けをやめればもう一つ部屋がとれるはずだし、良いところはないのではないかと思う。開放感があるというが、開放感なら屋外で十分である。

前に、東京・丸の内にある東京會舘の12階で行われたあるパーティに出たことがある。パーティ会場を出て、廊下の壁にもたれて、だべっていたのだが、どうも壁の高さが中途半端である。男性の肩くらいの高さ。向こうに何があるのかと、手をつき、身を乗り出して見てみると、12階から1階まで吹き抜けになっていて、一気に酔いが冷めたのであった。後で、1階から見上げると壮観だったが、上から見ると怖いだけである。もう少し壁を高くするか、完全に壁で仕切ってほしいものである。

東京タワーの展望階や、最新のファッションビルで、床がガラス張りになって、その上を歩けるようになっているのを見かける。これは歩いてかまわないように、強度のあるガラスが使われているものだが、ああいうのに慣れてしまうと、今回の事故であったような天窓上を平気で歩くようになりかねない。一般にガラスは強度のないものと認識させる環境が必要であろう。

建築物に限らず、外観上、危険性を感じさせない危険なものは、危険そうに見える危険なものよりも、危険である。刃が白で柄がピンクのかわいいセラミックス製の包丁が売られているのを見たことがあるが、使用時には普通の包丁より注意を欠きそうになる。

外観、デザインより安全性を優先したいものである。

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2008年6月 3日 (火)

「最小時間の原理(フェルマーの原理)」と「最小作用の原理」

物理法則の中には、人類の世界観や哲学にまで影響を与えるものがある。

「フェルマーの原理」や「最小作用の原理」がその代表例である。これらの法則は一見、神秘的な不思議さをもつので、18世紀中頃にはイデオロギー論争まで巻き起こした。これらは純粋に数学的、物理的な原理に過ぎないのだが、その不思議さゆえ、背景に神学的な観念を見いだそうとする人々がいた。

■ フェルマーの原理(最小時間の原理)

真空中の光速は3.0×108m/sだが、物質中を通過するときの光速は、物質の屈折率で真空中の光速を割ったものになる。空気の屈折率は1だが、水の屈折率は1.33なので、水中を光が通過するとき、光速は真空中の1.33分の1、ほぼ75%まで減っている。

さて、空気中のA点から、水中のB点まで光が進むことを考える。よく知られているように下図の実線のように、境界面にあるC点で少し折れ曲がって、B点に到達する。C点でこういう折れ曲がり方をするのは、水と空気の屈折率が異なるためである。

それぞれの入射角のsinをとったものの比が、それぞれの屈折率の逆数の比に等しいというスネルの法則で角度を求めることができる。

Fermat1

光の進む経路は、上に述べたような計算で求まるのであるが、この経路は実は他の経路、例えばAからBまでまっすぐ直線で向かうだとか、A→X→Bの順で向かうだとかのどんな他の経路よりも、必ず早く着くようになっている。光は水中で遅く、空気中で速いので、水中を進む距離はできるだけ短い方がいいが、かといってあまり短くすると空気中の距離が長くなりすぎて、逆に時間がかかる。この2つがちょうどよいバランスになって、最小時間となったのが、実際の経路である。まるで、光は最小時間となる経路を探し当てたかのように、最小時間となる経路を進む

光がそんなことを考えながら、つまり経路を探索しながら、進むのかという点がポイントである。

私は高校時代、この話を聞いたとき、隣席の友人と、「光がそんなことを考えながら進むんかいな?」と言い合った記憶がある。

光は別に考えながら進むわけではない。水と空気の境界面で電磁場の強度が連続であるという条件から導き出されるスネルの法則に従って、経路をとれば、それが最小時間の経路だったというだけである。つまり、直線XC上に様々な通過点を考えて、AからBまでの所要時間を式にして微分すると、所要時間が極小となる条件式が求まる。この条件式が、スネルの法則の式と同じになるということだ。普通は、このように説明される。

しかし、量子力学的な見地からは、光は経路を探索しながら進んでいるという見方が可能である。光はすべての可能性のある軌道を試してみるのだが、実際の軌道以外の軌道同士は互いに打ち消しあうので、実際の軌道だけが残る。スリットを通過する波を考えたとき、スリットが狭い方が、スリット通過後の拡がり角が大きくなるのもこれが理由である(狭いと打ち消しあう割合が少なく、広いと打消し合う割合が多い)。(『ファインマン物理学第2巻 光、熱、波動』 1章)。

これは光の話だから、量子力学的に考えるのなら、こういう解釈もありかなと理解できる。大きな物体が運動するときに似たような法則があったとしたら、どう考えればよいのだろうか・・・。

■ 最小作用の原理

『ファインマン物理学第3巻 電磁気学』(岩波書店)の巻末には、ファインマンの特別講義を「大体話した通り」に収録した<補章>が存在する。「これは"余興"のつもりである」という前置きの後、『最小作用の原理』について講義がなされている。

ファインマンは講義の冒頭

私がハイスクールのとき、物理の先生 -Bader先生- があるとき物理の講義のあとで私をよんで言った。’君は退屈しているようだ。少し面白い話をしてやろう。’先生は少し話をしてくれたがそれは私にとって全く魅力的であって、それ以来ずっと魅力を感じている。その主題が出てくるたびに、私はやってみる。事実この講義を用意し始めたとき、いつのまにかこの問題についてさらに分析を進めていた。講義のことなんか忘れて、新しい問題にとりくんだ。その主題がこれ -最小作用の原理- である。

と述べている。ファインマンはノーベル物理学賞を受賞したほどの人なので、ハイスクールの物理の授業のときに退屈していたというのも、うなずける。さらに、ファインマンの研究業績の多くは、最小作用の原理を使ったものだが、これがハイスクールのときに聞いた面白い話しがきっかけになり、基礎になっているというのが面白い。

多くの科学者がフェルマーの原理に触発されて、似たような原理が力学的運動にもあるはずではないかと必死に探索を行っていたところ、同様な考え方をする原理が、オイラーやモーペルテュイといった天才たちによって発見されたのである。それが「最小作用の原理」である。

物体を投げたときの運動でも、振り子が揺れる運動でも何でもいいのだが、物体がA点からB点まで、ある時間をかけて移動したとする。さらに、A点からB点まで同じ時間をかけて移動する他の経路を仮想的に考える。

「運動エネルギー - 位置エネルギー」 の値を、A点からB点までの時間で積分した数値を求めると、この値は実際の経路が、仮想的な他の経路よりも必ず小さくなっている。これが「最小作用の原理」である。「運動エネルギー - 位置エネルギー 」 を時間で積分したものを、「作用」と呼んでいるので、「最小作用の原理」とよばれる。

物体が実際に通る経路は、「運動エネルギー - 位置エネルギー」の時間積分が最小(極小)となる経路であるということは、ニュートンの運動方程式 F = ma と等価である。「運動エネルギー - 位置エネルギー」をラグランジアンと呼ぶが、ラグランジアンが一般的にこの形をしているわけではなく、ニュートンの運動方程式のラグランジアンが「運動エネルギー - 位置エネルギー」の形をしているというのが正確である。

なぜこうなるのか、こういう原理が存在するのかについて、理解するには、変分原理(オイラーの方程式)、部分積分(これは高校で習う)が予備知識として必要である。

ここら辺の話は、『解析力学』の名前で出ている専門書に詳しい。「解析力学」は、以前は地味な学問分野だったらしいが、量子力学の登場とコンピュータの発達で、最小作用の法則を用いた計算がふんだんに行われるようになって、華やかな分野に成り代わった。

ちなみに、『ランダウ・リフシッツ 理論物理学教程 力学』(東京図書)は力学の教科書だが、いきなり1巻の冒頭から最小作用の法則の説明で面食らう。普通の力学の教科書と異なり、運動方程式の説明が、最小作用の法則で導入されている。少なくとも初学者向けではない。

■ 最小発熱の原理

以上の法則の類型で、最小発熱の原理が存在する。不均質な物質中を電流が流れるとき、発生するジュール熱が最小となるように電流が分布するというものである。

この法則を使って、多相系の電気伝導率、特に金属・絶縁体混合物に見られるパーコレーションなどを説明できないものかと考えている。

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2008年5月31日 (土)

3個の中から1個の当たりを選ぶときの不思議な確率の話 モンティ・ホール問題

モンティ・ホール問題(Monty Hall problem)と呼ばれる単純で不思議な確率の話がある。ウィキペディアによると数学者でさえ正答に対して、反論したという。

問題は至ってシンプルである。

司会者が3個の箱A、B、Cを客に見せる。そのうち1個にだけ当たりの景品が入っていて、残りの2個はハズレの空箱とする。客はどれが当たりかを知らない。客に1個を選ばせて、客がBの箱を選んだとする。司会は選ばれなかった2個のうち、1個をあけて、それがハズレであることを客に見せる。このとき、司会はどれが当たりでどれがハズレかを知っていて、必ずハズレの箱をあけるものとする。今は箱Aをあけたとしよう。

司会はこの後、選択を変更できることを客に伝え、はじめ選んだ箱Bのままでいくか、それともまだあけていないもう1個の箱Cを選びなおすか、質問する。

このとき客は、選択する箱をもう1個に変更したほうがよいか、はじめのままでいくのがよいか?

というのが問題である。

この問題を出すと、Bが当たるのも、Cが当たるのも確率はそれぞれ2分の1だから、どっちでもよいという説。だいたい普通は、この説が多数派になる。これを2分の1説と呼ぶことにする。

これに対して、司会が箱Aがハズレであることを明かした時点で、Aが当たる確率であった3分の1が、Cが当たる確率に加わるので、Cの当たる確率は3分の2になる。だから、Cに変更する方が当たる確率が上がる。選択を変更すべきという説である。これを3分の2説と呼ぶことにする。

この問題を提示すると、ディベートのように議論が白熱して、その場では多数派が正解とされかねないことが多いのだが、結論から言うと、選択を変更すべきという3分の2説が正しい。こっちを主張して、納得する人は少数派だがこちらが正解である。実際、誰か相手を見つけてやってもらうと、選択を変更する方が当たる確率が上がる。

直観的に説明すれば、司会者がCをあけずに残したのは、Cが当たりであることを知っていたからという可能性が高い。司会者がCを開けずに、Aを開けた時点で、客にAではなく、Cが当たりの可能性が高いという情報を伝えてしまっているのである。Bは客が選んでいてルール上、司会者は開けられないので、司会者の行動は、Bに関する情報を増やさない(はじめの確率3分の1のまま)。もし、AかCかというなら、Cですよという情報を客に伝えてしまったわけである。

もっと直観的なイメージでとらえるなら、10個の箱があって、当たりがそのうち1個ある。司会者がそのうち8個のハズレの箱をあけてくれたときを考えればよい。残りの1個を開けなかったのはそれが当たりだからという理由の可能性が高い。客が選んだ箱を司会者が開けなかったのは客が選んでいるからである。感覚的説明では納得いかない人のために、数学(算数)的に、すべてのケースについてシミュレーションしてみると以下の表のようになる。

Monty_4 

客がBを選んで、司会がAを開けた時点で残される可能性は、黄色く塗った部分だけである。

当初、Cが当たり(and 客がB選ぶ and 司会がA開ける)は9分の1、Bが当たり(and 客がB選ぶ and 司会がA開ける)は18分の1の確率であった。他の可能性が消えたので、これらの比2:1を合計が1になるように直すと、Cが当たりは3分の2、Bが当たりは3分の1の確率となる

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2008年5月22日 (木)

使ってよい単位と使ってはいけない単位 -SI単位、法定計量単位

昔、天気予報では、気圧を表現するのにミリバール(mbar)という単位が使われていたが、今はヘクトパスカル(hPa)である。これは1992年(平成4年)に計量法が改正されて、気圧(圧力)を表現するにはSI単位(エスアイ単位)を使うことになったためである。ミリバールはSI単位ではないが、数字上はヘクトパスカル(パスカルPaの100倍)と同じ値になるので、混乱は少なかったようである。例えば、台風の中心気圧950ミリバールは950ヘクトパスカルである。

使用すべき単位は、計量法という法律で細かく定められていて、使用してはいけない単位もある。外国では、長さの単位でインチinch(1 inch = 2.54 cm)が使われることがあるが、インチの目盛りをつけた定規を日本国内で販売すると違法である。同じく、ポンドpound(1 pound = 454 g)の目盛りをつけた体重計も販売できない。長さ、質量はメートルm、キログラムkgが法定計量単位とされていて、インチ、ポンドは法定計量単位ではないからである。

計量法第9条1項

第2条第1項第1号に掲げる物象の状態の量の計量に使用する計量器であって非法定計量単位による目盛又は表記を付したものは、販売し、又は販売の目的で陳列してはならない。

kgf/cm2表記の圧力計、カロリーcal表記の熱量計、熱伝導率計も今は販売できない。圧力はパスカルPa(または気圧atm)、熱量はジュールJが法定計量単位だからである。ただし例外もあり、血圧計はmmHg表記が認められている。医療関係では間違いを避けるため、従来の単位の使用が引き続き認められている例が多い。

Keir_3

使ってよい単位は、「法定計量単位」と「非法定計量単位の一部(17量)」

使用できない単位は、「非法定計量単位のうち、上の17量以外」

非法定計量単位のうち、17量は使ってよいことになっている。この理由は、これらの量を測定するときに使用する単位が法定計量単位にないからである。例えば、比重、湿度、硬さ、圧縮強さ、引っ張り強さ、耐火度などで、これらの量を示すための単位が、法定計量単位には定められていない。

「法定計量単位」は、「SI単位系すべて」と「非SI単位の一部」。

「非SI単位」なのに「法定計量単位」に含まれているものは、次の3つの理由に分類される。

SI単位では表せない量(7量)。音圧レベルのデシベルdBなど

SI単位でも表せるが非SIの方がメジャーな量(5量)。圧力のatm(気圧)、粘度のポアズP、濃度の%やppmやpH、回転速度のrpmなど

SI単位で表せるが、用途によっては非SIの方が使いやすい場合(13量)。長さの海里(海面、空中に限定)、オングストロームÅ(電磁波、膜厚、結晶に限定)、熱量のカロリー(栄養、代謝に限定)

メモ

オングストロームはSI単位ではないが、法定計量単位となっている。

カロリーcalの使用は栄養、代謝に限定されるので、熱エネルギーにはSI単位のジュールJを使う。

%、ppm、pHはSI単位ではないが、法定計量単位なので使用できる。ちなみにSI単位はmolを使用した濃度表記である。

力の単位である重量キログラムkgfは現在、使用禁止(非法定計量単位である)。

圧力の表記はSI単位ではパスカルPaだが、気圧(atm)も法定計量単位なので使用は可能。mmHgは血圧以外には使用できない。

などなど

なお、使用できないというのは、「取引または証明に用いてはならない(計量法第8条)」なので、実験ノートや学生のレポートに記載したら違法になるというものではありません

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2008年5月 8日 (木)

オービタル(原子軌道)を図示するときによくある混乱、間違い

高校化学で、原子内の電子は、K殻、L殻、M殻・・・といった電子殻に一定の規則で収容されていると習う。この電子殻はさらに細かく、s軌道、p軌道、d軌道・・・といったオービタル(orbital)に分かれている。

このオービタルの形を図で表現する際に混乱、間違いが多いようである。

2p軌道(2px軌道)を例にとる。

Orbital1_2

2p軌道を図で表すとき、上図のうち、いずれかの形状で表現されることがほとんどである。ここでは形状だけを問題にして、色の付け方、陰影は問題にしないものとする。

結論からいうと、(1)や(2)の図を使用して、2p軌道の電子密度の分布がこうなっているとか、2p軌道の電子雲の形がこうであるというのは間違いである電子雲の形、電子密度の分布を表現するのは(3)の図である。

(3)の図は、電子密度や波動関数の値が等しい値となる点を結んで面とした等値曲面(contour surface)を表した図である。この図を見れば、だいたいどういう領域に電子がいるかをイメージすることができる。
※電子密度は波動関数の二乗だが、この場合、形状は同じく(3)となる。

では、形状の異なる(1)や(2)はいったい何を表した図なのか。(2)は見かけることの非常に多い図である。(3)を近似したものではない。実は、(1)や(2)はpolar plot と呼ばれる図で、電子雲を直接表現した図ではない。polar plotは等値曲面、等電子密度面とは異なる

(1)について考えよう。まず原点(原子の中心、球同士が接しているあたり)をとり、原点から図の球の表面までの距離を考えると、この距離がその方向における波動関数の値に比例した値となる図である。(波動関数におけるrは一定と考えておく)。

(2)の場合も同様だが、こちらは原点から曲面までの距離が、その方向における電子密度に比例する図となる。(2)は、(1)の距離を二乗したものである。

重要な点は、2p軌道の電子雲の分布、電子密度を表現するのに(2)の図を使うのは間違いで、(3)の図が正しいということである。

例えば、高校参考書のチャート式「新化学II」では、2p軌道の電子雲モデルを表現するのに(2)の図を使っているが不適切である。こういった例は意外に多い。

ここら辺の議論はO. Kikuchi and K. Suzuki, Journal of Chemical Education, 62, 206-209 (1985).に非常にスマートにまとめられている。

以下、図を引用して、解説する。

Fig1

2p軌道の波動関数において、rとθを一定と考えると、φの項だけが残るわけだが、その項はcos φである。図(a)のように作図すると、OPの長さがcos φに比例するようになる。図(a)の内側の2つの円が波動関数のpolar plotとなる。図(b)は、OPの長さがcos φの二乗に比例するように作図したもので、電子密度のpolar plotである。図(c)、図(d)はそれぞれ波動関数、電子密度が同じ値となる点を線で結んだものである。いわば波動関数、電子密度の等高線のようなものとなる。

電子分布を表現するのには(c)、(d)が適切で、(a)、(b)は不適切ということになる。

現在、等電子密度面の計算、図示などはPCを用いれば比較的簡単にできるので、polar plotなどで図示せず、等電子密度面(等値曲面)で示して欲しいものだ。上に引用した論文の著者らも、20余年前に同じことを述べている。

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2008年5月 7日 (水)

古い98互換機とMS-DOS Ver. 5.00に関するメモ

うちの研究室では1994年のPC(98互換機)がまだ現役である。マウスもWindowsも使えず、黒い画面に出るMS-DOSのプロンプト(">"のこと)にキーボードから入力するタイプである。

古いPCを使っているのには、もちろん理由があって、古い測定装置(粉末X線回折装置島津XD-D1)とセットになっているからである。この測定装置は、当時の独自のインターフェースを通じてPCとつながっているので、PCが壊れると測定装置は制御できなくなる。

PCを最新のWindows XPの機種に更新して、この測定装置を制御することは無理だという。装置側のインターフェースが、当時のPCに合わせて作ってあるかららしい。まあ、技術的には絶対に無理ではないが、かなりのコストがかかるということだ。

Windowsに慣れてしまった人は、MS-DOSや古い98互換機(PC-9801シリーズを含めて)の使い方はまったく知らないので、以下に使い方などのメモ。

スペック:PC-486SE(EPSON製の98互換機)、メモリ1.6メガバイト、MS-DOS Ver. 5.00

※MS-DOSは「エムエスドス」と読む。
※※98は「きゅうはち」と読む。1990年代前半までに、日本で売れに売れたNEC 9801シリーズのことをさす。Windows 98のことではない。EPSONから98互換機が販売されていた。

■ 電源の入れ方(重要)

1.フロッピーディスクを取り出しておく(重要)。2.で電源を入れたときにフロッピーが損傷する可能性があるため。

2.ディスプレイ(モニター)、PC本体の電源を入れる。ハードディスクがあり、システムがハードディスクにある場合はそのまま待つ。フロッピーにシステムが載せてある場合(システムディスクという)は、この後、フロッピーを挿入する。電源を入れて、数秒以内にフロッピーを入れると、PCはフロッピーにシステムがあると思い込むので、システムがなければ立ち上がらなくなる(これは今のPCも同じ)。

3.MS-DOSのプロンプト > が表示されるので、命令を入力する。メニューが起動される場合は、メニューにしたがって操作する。

注意点など:
 ハードディスクはCドライブではなく、Aドライブのことが多い(重要)
 大文字と小文字の区別はないので、好きな方を使う。
 ENTERキーを最後に押さないと、入力していないのと同じ
 メニューでは、ファイルの選択、選択解除にスペースキーを使うものがなぜか多い
 STOPキーを押すとほとんどの場合、プログラムは停止する

何らかの理由でプログラムが停まって、もう一度、起動時と同じプログラムを立ち上げたいときは、>の後ろに AUTOEXEC.BAT と入力して、ENTERすればよい。それでも動かないときは、>の後ろに、 A:\ など、ハードディスクのドライブ名+コロン+\を入力する。AUTOEXEC.BATは、UNIXの.login(ドットログイン)のようなもの。

■ 電源の切り方(重要)

1.プログラムを終了させて、MS-DOSのプロンプト表示 > にする。

2.STOPキーをゆっくりと2回押す。ハードディスクを損傷しにくい状態にするため

3.フロッピーディスクを取り出す。

4.PC本体、ディスプレイの電源を切る。

■ よく使うMS-DOSのコマンド例

以下はプロンプト > から入力して実行するコマンドの例

DIR   ディレクトリの中のファイル一覧を表示する。一気に表示されてしまうので、DIRの後ろに /P や /W を付けて、小刻みに表示させることが多い。ディレクトリとはフォルダのことと思っておいてよい。 

A:   Aドライブに移る。Bドライブも同様。

CD   ディレクトリの位置を変える。 CD A:\TEST でAドライブのTESTという名のディレクトリに移る。この場合、\マークは一番、根元、つまりトップの意味である。いま、Aドライブの根元にいるなら、 CD TEST だけでよい。

COPY   ファイルをコピーする  COPY A:XRD.TXT B:  でAドライブのXRD.TXTというファイルをBドライブにコピーする。

MORE   ファイルの中身を表示する。 TYPE XRD.TXT | MORE でファイルの中身が1ページずつ表示されるが、テキスト形式でない場合は文字化けする。| MOREを付けずに、TYPEを使うと一気に中身が表示される。

*    *.TXT で、拡張子がTXTのファイル全てを意味する。例えば COPY A:*.TXT B: でAドライブにある拡張子TXTのファイルを全て、Bドライブにコピーできる。*.*とすれば、ディレクトリ内の全ファイルを意味する。

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2008年4月30日 (水)

ホウ酸、およびホウ酸塩の化学

ホウ酸、およびホウ酸ナトリウムに関しては、小学校の理科で習って以降、高校の化学でも出てこないし、大学の無機化学でもあまり触れられない。専門書では、ホウ素の酸化数がホウ酸とは異なるホウ素化合物についてはトピックス的に扱われているが、ホウ酸、ホウ酸塩について書かれているものはほとんどない。

ホウ酸、ホウ酸ナトリウムの基礎をまとめてある本が少ないので、以下にノートしておく。

■ ホウ酸とは

オルトホウ酸 H3BO3、メタホウ酸 HBO2、四ホウ酸 H2B4O7など、xB2O3・yH2Oの組成をもつ酸を総称してホウ酸と呼ぶ。しかし、通常、ホウ酸といえばオルトホウ酸 H3BO3のことをさす場合がほとんどである。以降、ホウ酸と記した場合は、オルトホウ酸を意味するものとする。

■ ホウ酸(boric acid)の構造と性質

ホウ酸H3BO3の化学式は、B(OH)3と表記されることもある。BO33-は平面構造で、これが水素結合で層を形成している。この層が0.318nmの層間隔で積層した構造となっているので、ホウ酸にはへき開する性質がある。

結晶は無色透明、片状の六角形である。20℃における密度は1.49 g/cm3、融点は184℃。

加熱すると、順次H2Oを失い、変化する。
 オルトホウ酸 H3BO3 
 
(約100℃) → メタホウ酸 HBO2 
 
(約140℃) → 四ホウ酸 H2B4O7
 
(約300℃) → 酸化ホウ素 B2O3

最後に生成する酸化ホウ素はガラス状である。

水への溶解度は20℃で4.00 (水100gに対する溶解量(g))。溶解時に吸熱するため、加熱すると、かなり溶けやすくなる。OH基を有する有機溶媒には溶けやすいとされているが、OH基を有するアルコールと反応してエステルを生成する性質がある。

ホウ酸はきわめて弱い酸である。塩基との中和反応において、プロトンH+は放出せず、OH-を受け取る働きをする。つまり、厳密にはブレンステッド酸には分類されず、ルイス酸として作用する。

一段階目(次式)の酸解離定数K1(25℃)は 5.9×10-10

B(OH)3 + H2O → B(OH)4- + H+

二段階目、三段階目の酸解離定数(25℃)は
  K2: 1.8×10-13
  K3: 3.0×10-14

ホウ酸H3BO3の酸解離定数は、同じように三段階あるリン酸H3PO4の酸解離定数(K1から順に7.0×10-3, 6.3×10-8, 1.8×10-12)に比較しても、きわめて小さい。

ホウ酸水溶液をアルカリで中和滴定すると、二段階目、三段階目に行く前の、一段階目だけで、指示薬の変色点を超えて、アルカリ性寄りになってしまう。それほど弱い酸ということであり、通常の指示薬では正確に中和滴定できないことになる(pHメータを用いれば別)。

中和滴定でホウ酸を定量するときは、ホウ酸にマンニトールやグリセリンを加えてエステル化し、普通の強さの1価の酸(一塩基酸)に変化させてから、指示薬を用いて中和滴定を実施するのが普通である。

つまり、前処理後の中和滴定のときは一塩基酸(一価の酸)として作用することになる(前処理をしていないと一塩基酸よりも弱い)。ホウ酸のH3BO3という化学式からは、3価の酸として中和反応の計算を行ってしまいそうになるが、上述の計算のときは1価の酸とする必要がある。

■ ホウ素の炎色反応

ホウ素の炎色反応は緑色である。高校化学で習う「リアカーなきK村(Li:赤、Na:黄、K:紫)」に含まれていないためか、余り知られていない。

■ ホウ砂(ほうしゃ、borax)の構造と性質

天然に産出する主なホウ酸ナトリウムである四ホウ酸ナトリウム十水和物(Na2B4O7・10H2O)をホウ砂と読んでいる。化学式はNa2B4O7・10H2Oが用いられることが多いが、結晶中で[B4O5(OH)4]2-の存在が確認されたことから、Na2[B4O5(OH)4]・8H2O と表記されることも多くなっている。

水溶液からは、62℃以下で十水和物(Na2B4O7・10H2O)が析出し、62℃以上で五水和物(Na2B4O7・5H2O)が析出する。溶解度曲線が62℃で微分不可能となるのはこのためである。

350~400℃で無水物に変化、878℃で融解しガラス状となる。

密度はNa2B4O7・10H2Oが1.715 g/cm3、Na2B4O7・5H2Oが1.81 g/cm3

米国ではBoraxoの商品名で、ホウ砂が配合されたセッケンが市販されている。

ホウ酸塩水溶液の相図はかなり複雑で、その溶液化学に関してもわかっていない点が多いようである。我々が発見した新しい高濃度のホウ酸塩水溶液も、そのわかっていなかった点の一部に存在したものであろう。

ホウ砂は、その凝固点降下の大きさから、水溶液中で下記のように電離して、元のホウ砂の6倍の物質量の化学種を形成しているとされている。

Na2B4O7 + 7H2O → 2Na+ + 2B(OH)4- + 2H3BO3

2003年という比較的新しい学術論文でも、ホウ砂水溶液中に含まれる化学種の物質量を議論したものがある(A. Apelblat, E. Manzurola, J. Chem. Thermodynamics 35, 221-228, 2003)。これはホウ砂水溶液の凝固点降下の大きさを精密に調べると、ホウ砂の7倍の物質量(モル)になったという報告で、上の式より、もっと複雑な反応が存在することを示唆している。

ホウ酸塩の濃度計算は、式量の算出、結晶水が溶質でなく溶媒になることなど、面倒くさいことが多い。「ホウ酸塩に関する計算メモ」参照。

以下の表はホウ酸、各種ホウ酸塩の溶解度(N. P. Nies, and R. W. Hulbert, J. Chem. Eng. Data, 12, 303-313 (1967)より引用)。注意 一般的な溶解度と異なり、飽和水溶液100gに含まれる無水物(xNa2O・yB2O3換算)の質量(g)で表記してある。ただし、ホウ酸だけはB2O3換算でなく、ホウ酸H3BO3の質量で表記してある。

Borate_sol

ホウ砂(Na/B比0.5)では62℃以上の温度領域で、同じNa/B比の5水和物と4水和物(Kernite)、それぞれ2種類の溶解度が記載されている。これは一見、奇妙である(5水和物の飽和溶液は、4水和物に関して過飽和の状態となってしまう)。これに関しては、それぞれの上澄み液(液相)のNa/B比が違うとされている。

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2008年4月17日 (木)

毒性の高い硫化水素で相次ぐ自殺 -硫化物には規制が必要か

硫化水素H2Sは、腐卵臭(卵の腐った臭い)のするガスである。草津温泉や万座温泉に行くと不快なくさい臭いが立ち込めているが、あの臭いの成分が硫化水素である。

最近、硫化水素による自殺が社会問題になるまで、その毒性が話題に上ることは余り無かった。火山などから自然発生した硫化水素を吸って亡くなる死亡事故は、ここ10年で数件報告されている程度だったと思う。

硫化水素は高校で化学実験に使用することもあるが、まともに吸うと死亡事故を起こしかねないほどの高い毒性をもつガスである。私の経験では、高校の化学の授業中に重金属を沈殿させる実験で、ドラフト内に置かれた硫化水素発生装置で硫化水素を試験管に吹き込んだ記憶がある。とにかく毒性が高いから、ドラフトの中に頭を突っ込んだりしないように注意されていた。ちなみに硫化水素(分子量34)は、空気(平均分子量29)よりも少し重い(気体の密度は分子量に比例する)。

有名な話だが(参考文献VOW)、火山性ガスの発生する箱根の大涌谷には、硫化水素に関してこんな注意書きの看板(写真へのリンク)が立っている。

注 意
この附近は、火山ガス(有害ガス)の噴出地域です。危険ですから立ち止まったり、食事などをしないよう充分注意してください。

硫化水素感知判別表
硫化水素濃度  感知度             避難基準
(ガスのこさ)   からだにかんずるていど   どうしたらよいか

5~8 PPM  気持ちのわるいにおいがします  なるべく立ちどまったりしないでください
80~120 PPM   においを強く感じます       ここからとおざかってください
200~300 PPM  においは強くないが、目、はな、のどに強いいたみを感じます  ここからただちにとおざかってください              
500~700 PPM  中毒をおこします        覚悟してください
1000~1500 PPM 死亡します           あきらめてください

神奈川県箱根公園管理事務所
神奈川県小田原保健所

許容限度は10 ppmである。100 ppm程度でも8時間以上吸入し続けると、気管支炎、肺水腫で死亡する可能性がある。700 ppm程度で短時間の呼吸で呼吸麻痺を起こし死亡、1000 ppmで昏倒し、呼吸麻痺で死亡、5000 ppmで即死するとされている。ちなみに1000 ppm=0.1%。

上の看板の「あきらめてください」に対しては不謹慎であるという指摘があったそうだが、もし万が一、1000 ppm以上が自然発生していれば、あきらめるしかないのである。

国立大学教授が、硫化水素ボンベから硫化水素が漏れていることに気づき、学生に逃げるように叫びながら、自分はガス漏れを止めにいったのだが、教授はそのまま硫化水素ボンベを抱きかかえて、帰らぬ人となった悲惨な事故もあった。

最近、社会問題化しているが、硫化水素は市販のものを使用して、簡単に発生させることができてしまう。原理は高校レベルの化学を習得していれば、誰でも思いつくものである。

硫化水素は弱酸なので、

  弱酸の塩 + 強酸 → 強酸の塩 + 弱酸↑

といういわゆる弱酸遊離の反応で発生する。実験室での硫化水素発生法として、化学の教科書に載っている方法だ。

具体的なことは書かないが、強酸はどこにでもあるので、規制は難しい。問題は「弱酸の塩」である。硫化水素の塩、すなわち硫化物が、どうも巷に手に入りやすい形で市販されているらしい。硫化物は入浴剤の一種として売られているらしく、それ自体は、それほど高い毒性がないので、本来は規制対象でないという点が難しいところである。

硫化水素を使った自殺が相次いでいることで顕在化した点だが、市販の硫化物と強酸は、どちらも浴室などで使用する可能性のあるものである。知らずに浴室などで混合してしまう事故が起こってもおかしくない。

現状では、市販されている「酸」には様々な注意事項が記載されているが、硫化物の方には、まったく注意事項が記載されていない。注意事項をきちんと記載すべきであるし、場合によっては、一部の殺虫剤のように市販を規制してもよいのではないか。

入浴剤として市販されている硫化物は、いわゆる硫黄の臭いを自然に発しているという話なので、この臭気成分の点で、規制を加えることも可能だと思う。硫黄の臭いがすることは、硫化水素など硫黄の化合物が何もしなくても発生していることを意味している。

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2008年2月27日 (水)

研究者の確定申告 -初めてPCから電子申告

研究者が、何で確定申告をする必要があるのかと疑問に思う人がいるかもしれない。意外と知られていないが、本業とは別にわずかでも原稿料収入、講演料収入があれば、確定申告で、税金が戻ってくる場合が多い。

■ 原稿料、講演料から、あらかじめ1割引かれている税金を返してもらう

依頼されて原稿を書いて原稿料をもらったとか、講演を頼まれて謝礼をもらったなどの場合、あらかじめ税金として1割に相当する額が差し引かれている(源泉徴収)。本業が別にある研究者等の場合、この1割天引きされた税金については、確定申告すれば戻ってくる場合が多い。

研究者が原稿を書いて原稿料をもらえることは滅多にない。学術論文を書いて雑誌に載せてもらう場合、大抵は逆に持ち出しである(別刷り購入代、場合によっては掲載料等)。それでも、たまに依頼されて解説記事などを書くと5千円とか1万円とかのレベルで、原稿料がもらえることがある。

原稿料が1万円なら、手元に来るのは9千円で、1割の千円が税金として源泉徴収されてしまっている。私も、最初は知らずに損をしていたのだが、原稿を書くのに経費がかかった場合、経費に相当する分には税金がかからないので、確定申告すれば戻ってくる。例えば、1万円の原稿料収入を得るのに、1万円以上の「経費」を使った場合、赤字だから、申告すれば、税金として納めた千円は全額戻ってくる。経費が3000円なら、1万円から経費3000円を引いた7000円にだけ税金がかかることになるので、確定申告すれば300円戻ってくる。

研究者の場合、1万円の原稿料、講演料を得るのに、1万円以上経費を使うことは、実によくあることである。原稿を書くために参考にする専門書を数冊買えば、1万円を簡単に超えるし、学会で招待講演して1万円の講演謝礼をもらいながら、交通費が3万円かかることもよくある。研究者は、そういうお金の使い方をよくしている。研究者としての本業の収入から赤字分を埋め合わせに使うのである。税務署から文句を言われたことはないけれど、例えば原稿料収入5万円、書籍代30万円という形での赤字は本当によくあることである。研究者は原稿料がもらえるだけでも御の字ということだ。

原稿料収入などの雑収入(雑所得)は赤字であれば、その収入に関して税金はかからなくなるが、雑所得の赤字分を使って、本業の給料(給与所得)にかかる税金を減らすことはできない。これを「損益通算はできない」と言う。

上のように経費が収入(原稿料等)を上回る場合以外でも、他に収入のない学生、あるいは無給の研究者が雑収入を得た場合も、年収的に税金を払う必要がないので、確定申告すれば、天引きされた税金が全額戻ってくる。年収103万円以下(学生の場合は勤労学生となるので130万円以下)なら、原稿料等から天引きされた税金は全額戻ってくることになる。確定申告しないと大損である。(私は以前これを知らず、本来支払う必要のない税金を納めてしまっていた)

私は自分で書類を作って、確定申告するようになって、10年以上になるが、慣れればそれほど難しくはない。1回申告しておけば、昨年の書類を参考にしながら、楽に書類を作ることができる。

初めて確定申告したときは、書籍代などの領収証を集めて集計し、確定申告のときに書類と一緒に税務署に持参したのだったが、申告書類を出すときに一緒に領収証を出すと、「自宅に保管して置いてください。持ってこなくていいです。」と言われてしまい、拍子抜けしてしまった。その場で、何もごちゃごちゃ言われることなく、簡単に受理されて、控え書類にハンコを押してくれた。領収証の類は、見せるように言われたときに見せられるように、自宅に置いておけばいいらしい。(白色申告の場合の話である。青色になると違うらしい。) 書類提出後、2~4週間ほどで、自分の指定した銀行口座に、税の還付金が振り込まれるようだ。

■ 自宅パソコンから電子申告

昨年までは、手書きで書類を作成して、税務署に郵送していたが、今年からPCからネット経由で電子申告することにした。以下はその記録。

1.市役所に行って、住民基本台帳カードを発行してもらい、電子証明書の交付を受ける。

金沢市の場合、市役所の出張所では電子証明書の交付を受けられないと聞いたので、街中の市役所まで出向いた。10~15分でもらえると出張所の人に言われたが、案の定、1時間かかった。まず窓口で住民基本台帳カード(住基カード)の交付申請をすると、10分後、別の窓口で500円と引き換えに住基カードをゲット。その後、そのカードを持って、はじめの窓口にもう一度並び、今度は電子証明書の交付申請をする。カードの中に電子証明書を入れてもらった後、またもう一個の窓口に行って、自分の暗証番号を登録する。その後、また500円払って、電子証明書交付済みの住基カードをもらって終了。

2.ICカードリーダーを購入する。

勤務先で個人認証のためにICカードリーダーを使っていたので、それが使えるかと思っていたのだが、認識されなかった。住基カードに対応しているカードリーダーを近所の量販店で購入した。金沢市推奨のものが日立製とシャープ製らしいが(量販店談)、2980円のシャープ製を買った。

3.ICカードリーダーをインストール

シャープ製はCD-ROMが付属せず、シャープのWebサイトからソフトウェアをダウンロードして、インストールするようになっている。日立製はCD-ROM付属だが、CD-ROMは邪魔になるだけなので、シャープを選んだ。

4.公的個人認証サービス(JPKI)ソフトをインストール

金沢市役所で住基カードと一緒にCD-ROMを渡されたのだが、このCD-ROMでインストールしたところ、電子申告中にバージョンが古いことを示すエラーが出たので、Webサイトから最新版をダウンロードしてインストールし直した。

後は、e-Tax(イータックス、国税電子申告・納税システム)から、案内に従って、電子申告の手続きを済ませた。

昨夜の午後10時過ぎから3.の作業を初めて、電子申告が完了したのが、午前2時21分だった。4時間強を費やしてしまった。送信時にエラーが4,5回出て対処したが、順調な方なのか、苦労した方なのかよくわからない。まあ1日で済んだのでよしとしよう。

電子申告の方が計算が楽である。紙媒体なら説明を見ながら電卓やエクセルで計算していたところが、自動的に計算されて表示される。紙なら、複写式なので強い筆圧で書く必要があるが、それもない。ミスのときの訂正も楽である。また、紙媒体で申告するときにはない電子申告控除5000円がある。電子申告を使えば、還付される税金が5000円増えることになる。

私はPCに慣れている方だと思うが、マニュアル、手順などを流し読みしながら(精読せず)、行き当たりばったりでやったところ、最後の最後の送信時にエラーがでた。エラーメッセージを検索すると、対処法の載っているHPがたくさん出てくるので大変参考になった。市役所で前に並んでいた60代の男性が、同じく電子申告用の住基カードを交付申請していたのだが、要領を得ない質問をあれこれしていた。今回、電子申告を体験してみて、あの男性は多分あきらめるだろうな・・・と思った。

私が経験したエラーは、以下が原因だった。

・Acrobat Readerのバージョンが古かった。
・公的個人認証サービス(JPKI)ソフトに、ICカードリーダの機種を登録していなかった。
・Javaをインストールしていなかった。
・開始届出だけでなく、初期登録もする必要があった。

また、16桁の利用者識別番号、6桁の納税用確認番号はメモしておく必要がある。

電子申告に使うe-TaxのHPは比較的わかりやすい方だと思うが、税理士向けの記述と個人向けの記述が錯綜しているところがあって、個人向けのところは個人向けに絞って書いて欲しいものである。税理士向けの説明が、個人向けと同じくらい丁寧にしてあったのも意外だった。

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