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2006年8月30日 (水)

ルービックキューブと群論

久しぶりにルービックキューブを手にした。大流行したのは1980~1981年。今から25年前である。

結晶学における一連の空間群の話を思い出して、ルービックキューブは「群論」を使えば、解けると直感したことがあった。化学者が思いつくようなことを、数学者が思いつかないわけはなく、『数学セミナー』の1981年8月号に既に「ルービック・キューブで群論を学ぼう」が特集されていた。うちの図書館に『数学セミナー』のバックナンバーがあったので、調べてみた。夏休みの道楽である。

まず、通常の3×3×3タイプのルービックキューブの組み合わせは何通りあるかを考える。

ルービックキューブは

 辺央(辺の中央)にあるパーツ(2面に色シールがある) 12個

 頂点にあるパーツ(3面に色シールがある) 8個

 面心(面の中心)にあるパーツ(1面に色シールがある) 6個

から成っている。

もし、ルービックキューブを回転させるのではなく、キューブを機械的に解体し、パーツごとにバラバラにして、もう一度、組みなおす場合、できる模様の種類が何通りあるかは、高校の数学の範囲で簡単にもとまる。面心は動かないので、上記の辺中央、頂点をそれぞれに分けて模様が何通りあるかを考えて、それを後でかければよい。

 辺中央の配置は何通りあるか: 12個を順に配置する並べ方に加えて、12個それぞれについて色の入れ替えが2通りあるので、

   12!×2^12通り ・・・(1)

 頂点の配置は何通りあるか: 8個を順に配置する並べ方に加えて、8個それぞれについて色の入れ替えが3通りあるので

   8!×3^8通り ・・・(2)

(1)と(2)をかけたものが、いったんバラバラにパーツをはずして組みなおすときの配置の数である。

ここまでなら高校数学だが、キューブを機械的に解体するのではなく、6面そろった段階からまじめにカチャカチャ回転させて、到達できる配置の数は上の(1)×(2)よりも少なくなる

ルービックキューブの6面を完成できる人なら、経験上、知っている人が多いが、辺中央のパーツがひとつだけひっくりかえった状態(6面完成した状態から見て、1箇所だけ色が入れ替わった状態)は、6面完成状態から、回転操作では到達できないのである。到達できるできないの判断になると群論が登場する。

辺中央部に関して、色が入れ替わっている数の合計は偶数でないと、6面完成状態から到達できないのである。これを第1パリティ則といい、この規則は群論で導ける。色が入れ替わっている数の合計が奇数の状態は、到達できないので、ここで到達できる配置の数は(1)×(2)の半分になる。

さらに、頂点部については、色が入れ替わっている数の合計が3の倍数でないと、6面完成状態から到達できない。これを第2パリティ則という。だから、到達できる配置の数は上のさらに3分の1となる。

さいごに、忘れがちであるのだが、頂点部の2か所を入れ替える操作をすると、どうやっても必ず辺中央部の2か所も一緒に入れ替わってしまうことが知られている。このため、さらに、残りの半分はカチャカチャ回す回転操作では到達できないことになる。

結局、6面完成状態から回転操作で到達できる配置の種類は

12!×2^12×8!×3^8/(2×3)/2

=43,252,003,274,489,856,000 通り

となる。

余談だが、市販のルービックキューブでは面心部のパーツの向きがどうでもよくなっている。たとえば緑色の面心部のパーツで、崩す前は白色側にあった辺が、崩した後、もう一度完成させると青色側に来ているということもあるらしい。つまり、崩す前、全部のパーツに文字を書いておけば、完成後、面心部に書いた文字だけ向きが違うこともあるということだ。数学的には、面心部のパーツの向きまで含めて考えた方が洗練されたものとなるらしい。

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コメント

学生やってます。
高校のときに親に1000円のルービックキューブを買ってもらいました。
ひとりでハマリ、友達にいぅこともなく、やりました。
最近ホコリがかぶったルービックキューブに気づき、
久々やってみると10分以上かかったんですlll
2分でできてたはずが^^;
なんか過去の自分に悔しくなり格闘してました;
そこで気になってハンゲームの知識プレスに
書き込んだといぅわけです。
世界大会で10秒代でできる人たちはどんな脳みそをしているのか
不思議におもぅ;
ってなわけで書き込み終了」

投稿: megu。。。 | 2007年9月 6日 (木) 17時18分

私がはじめて買った1981年は、ルービックキューブが1980円でした。
しかも本物のツクダオリジナル(当時)製のはなかなか手に入らず、商店街(姫路みゆき通り)の道端の露店でニセモノを買ってしまったのでした。当時はニセモノだと知らず・・・。だんだんとブームが去るにつれて、露店の価格は下がっていってました。

むかし、1分から2分で6面合わせられたのだけど、やり方忘れてしまった。

投稿: tsuyumoto | 2007年9月 6日 (木) 21時36分

はじめまして、学生をしています。
いきなり書き込んでしまいすみません。
いま、私は、クラスで理数科課題研究というものに取り組んでいます。
数学班で「ルービックキューブを数学的に説明しよう」と
なったのですが、おもうように資料集めが上手くいかず
悪戦苦闘をしています。
こちらのブログにも名前の挙がっている「数学セミナー・1981・8」を
探しているのですが、20年以上もまえのものなので
なかなか見つけることができずにいます。
もしよろしければ、この本を探すにあたっての情報や
ルービックキューブを数学的に解明してある書物など
ご存知でしたら教えていただけませんでしょうか。
突然の申し出すみません。
お忙しいとは思いますが、お返事をいただけたら幸いです。
長文失礼いたしました。

投稿: 上原 | 2008年1月31日 (木) 17時05分

上原様

学生さんとのことですが、もし大学であれば、図書館に依頼すれば数学セミナーのバックナンバーのコピーを取り寄せることができます。コピー代は実費が必要になります。公立図書館、高校の図書館でも、同じようなコピーの依頼ができると思いますので、相談してみてはいかがでしょうか。

投稿: tsuyumoto | 2008年1月31日 (木) 21時37分

お忙しい中お返事していただきありがとうございます。
私は高校2年生です。高校の図書館でも問い合わせてみたのですが、
数学セミナー自体を購読していなかったのですが、それでも
取り寄せることはできますでしょうか?
公立図書館で問い合わせてみたいと思います。
お手間を取らせてしまい申し訳ありませんが、ご協力
よろしくお願いします。それでは、失礼いたします。

投稿: 上原 瑞樹 | 2008年2月 4日 (月) 17時40分

始めまして。趣味でルービックキューブをやっています。
昔、興味があって同じような計算をしてみたことがあります。

この記事の式12!×2^12×8!×3^8/(2×3)を計算すると結果は組み合わせ総数の2倍になりませんか?

>上原さん
数学セミナーの1981年8月号の記事は、「ルービック・キューブと数学パズル」という本に収録されていますよ。

投稿: おばきい | 2010年8月 1日 (日) 23時50分

おばきい様、指摘ありがとうございます。一つ欠落していましたので、加筆修正しました。これで合うようになったと思います。

投稿: Tsuyumoto | 2010年8月 3日 (火) 11時31分

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