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2006年9月 4日 (月)

「物質量(モル)」か「モル数」か

「物質量」という化学用語が高校化学の教育課程に登場したのは、我々が高校生の時代からである。

正確に言うと1982年の高校1年生からで、化学はそれまで化学I・化学IIだったものが、理科Iと化学に再編成された。余談だが、大きく変わったのが数学で数学Iはそのままだったが、数学IIBが「基礎解析」と「代数・幾何」、数学IIIが「微分・積分」、「確率・統計」という今となっては新鮮な科目名に再編成された。数IIB習いましたか?基礎解析習いましたか?と聞くと、だいたいの年がわかる。

化学の話に戻す。

このとき、何モルか?を表すのに「モル数」という表現は姿を消し、「物質量(モル)」あるいは単に「物質量」と表現されるようになった。検定済みの教科書だけでなく、参考書からもほとんどきれいになくなった。高校の教育現場も相当混乱したようで、私の母校でも、新課程に準じて「物質量(モル)」を使って授業した教育実習生を、ベテランの化学教諭(S先生)が「おかしいんじゃないか?モル数と教えるべきだ」と叱責したエピソードがあり、学校の紀要にも記録されている。

どうして、「モル数」を使ってはいけないか、「物質量(モル)」と表現しないといけないかの理由は単純明快に与えられている。例えば、体積(リットル)のことを「リットル数」とは言わない、温度(ケルビン)のことを「ケルビン数」とは言わないからである。モル数という表現は、体積をリットル数と表現しているのと同じだというわけだ。

しかし、物質量という言い方はどうもなじめない。質量と紛らわしいし、直感的にわかりにくいからである。モルというのは、温度などと違って、アボガドロ数という数字を使用した、少しわかりにくい概念であるから、温度や体積と同列に並べて考える必要はなく、モル数でも良いのではとないかというのが私見である。

鉛筆が何ダースあるかを、ダース数と言っても問題ないし、場合によっては体積をリットル数といっても許させるのではと思う。個人的には物質量は「モル数」としたい

Chart_2 しかし、時代の流れは着実に「物質量」を使う方向に流れているようで、私の所有するチャート式化学では新しくなるにつれて、「物質量」の登場頻度が増えている。1973年初版(左)では「物質量」の表記なし。1983年初版(中)では「物質の量」の表記が出ているが、「物質量」としてまとめた表記はない。ただし、同時代の啓林館発行の文部省検定済み教科書では物質量の用語が登場しているが、章としてはまとまっていない。2003年初版では、「物質量」が索引に登場し、節のタイトルとなっている。現行の文部科学省検定済み教科書にも「物質量」とはの説明がある。

Img_3042s ちなみに、もっと古くなるが、私の所有する中で最も古い教科書と思われる明治11年1月23日版権免許(1878年である)、同12年5月第1版発行の『無機化学 非金属部』(丹波敬三訳、下山順一郎校補)。この本は索引がイロハ順である。原子番号も周期律も概念として、伝わってきていない時代の本だ。

この本では、1モルのことを1グラム分子(グラムには瓦の字が当ててある)と表現している。「グラム分子」の表現は私は聞いたことがなかったが、上の1973年発行のチャート式にも「グラム分子」の説明が補足してあるので、比較的最近まで使われていたようである。「グラム分子」も質量と紛らわしい表現だと思う。

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コメント

僕の使っている参考書では物質量の事をモル数と表記しているのですが、記述式の試験で物質量の事をモル数と書いたら減点されるのでしょうか?

投稿: 谷田部 | 2017年8月18日 (金) 06時16分

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9月4日に、何モルかを表現するのに「物質量」ではなく、「モル数」でいいのではない [続きを読む]

受信: 2006年10月 1日 (日) 00時59分

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