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2006年11月15日 (水)

6価クロムによる環境汚染 -フェロシルト事件からセメントまで

酸化チタンメーカーとして有名な石原産業の起こしたフェロシルト不法投棄事件。

当初、フェロシルトは廃棄物から製造した土壌埋め戻し材で、有害物は環境基準内に無害化されているので、土に埋めても問題ないという話であった。しかし、このフェロシルト、実際は基準を超える有害物を含んでおり、埋めた場所に重大な環境汚染を引き起こしていたのだった。土壌埋め戻し材と銘打って土に埋めたのが、廃棄物の不法投棄に当たるとされて立件された。

今回の事件が意図的なものかどうかは知る由もないが、同社は以前にも似たような環境事件を起こしている。1969年(昭和44年)に、pH 1.8の硫酸廃液を1日20万トン、1年以上にわたって四日市港に垂れ流し続けたとして、海上保安庁に摘発された。いわゆる「石原産業事件」である。『四日市・死の海と闘う』、『公害摘発最前線』(両者とも岩波新書 田尻宗昭著)に詳しい。

昔のミドリ十字といい、似たような事件ばかりを繰り返す会社が多いのは、なぜなのだろうか。

今回の事件、主に問題となっているのは6価クロムである。

重金属はそれがどんな化学状態をとっているかで毒性がまったく異なることが多い。6価のクロムは毒性が非常に高く、しかも水によく溶ける革をなめすのには6価クロムが使用されているイタリア製のやわらかい独特の風合いの革製の手袋を着用していたら、革表面と皮膚が直接接触する手首のあたりに発疹が生じたこともあった。これはなめしに使用したクロムが残留していたためであろう。そのような場合は手袋の使用をやめた方がよい。

一方、コンビニに行くと「クロム」という名前のサプリメントが売られている。これはもちろん6価のクロムとは異なり、人体に必要なミネラルとして、6価とは異なる化学状態をとったクロムだ。

他にも水銀の毒性は、体温計などに使われていた金属水銀と、水俣病で問題となったメチル水銀とでは桁違いに異なる(メチル水銀の方が危ない)。

ヒ素についても、日本でとれるヒジキにはヒ素の化合物が含まれているが、毒性のない有機ヒ素が中心である。しかし、シロアリ駆除に用いる無機のヒ素は猛毒である。

なので、毒性を考えるときは、重金属の濃度を測るだけじゃなくて、それぞれの化学状態別に濃度を求める必要が出てくる。このように化学状態別に濃度を分析することをスペシエーションと呼んでいる。最近の分析化学のはやりである。

クロムの話に戻る。

有害な6価のクロムを無害化するのは簡単で、日本の環境基準に照らすと、6価のクロムを3価に還元してやるだけで、環境基準をクリアできるようになる。ただ、環境によっては3価がまた6価に戻りかねないので注意が必要である。周りに酸化力をもったものがあるかどうか、pHが低いか高いかで、価数の変化が決まる。

セメントからも6価クロムは出てきている。

以前から問題になっているのだが、実は普通のセメント(標準ポルトランドセメント)にもクロムが相当量含まれている。これはセメント原料の鉱さいや炉材(高温に耐える炉を造るために炉材にクロムが混ぜてある)に、由来するものである。ある分析によれば、セメント中にクロムが合計58.4mg/kg、6価クロムが6.4mg/kg含まれていた。そういうことなので、土壌改良剤としてセメントを用いるときは6価クロムの溶出に気をつけるように通達が出されている(平成12年3月24日付建設省技調発第48号建設大臣官房技術審議官通達)。

私の研究室で、普通のセメントを用いてモルタルを作製し、粉砕した後で、溶出液の6価クロムの濃度を分析したら、0.1~0.5 mg/Lであった。環境基準(0.05mg/L)をゆうに超えてしまっていた。6価クロムを考えるとき、セメントの扱い方にも十分な注意が必要である。これは意外と知られていない。

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コメント

革をなめす時に用いるのは、六価クロムではなく、三価クロムでは?
三価クロムでなめした製品を、従来の焼却炉の温度で焼却すると、六価に変化するのだと理解しています。昨今は高温での焼却が可能になったため燃えるゴミとして処分できる地域がでてきました。

投稿: | 2009年2月16日 (月) 23時29分

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