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2006年11月10日 (金)

数学オリンピック参加者のその後

数学オリンピック参加者がその後、どのような職業に就いているか。そんな調査結果が文部科学省科学技術政策研究所から発表された。

理数系コンテスト・セミナー参加者の進路等に関する調査(リンク)である。

これを受けた新聞各紙の記事(10月21日前後)の見出しは「数学五輪の参加者、4割が<仕事に数学生きてない>」(日経)、「数学五輪の出場者、数学研究者になったのは1割以下」(朝日)、「研究者志望も実現は1割弱…行き場少ない数学エリート」(読売)であって、数学オリンピックにまで出たのに数学の研究者になる人が思いのほか少ないというニュアンスであった。

上記リンクの調査結果を読むと、新聞記事ではわからないいろいろなことが見えてくる。とにかく一次文献に当たるのが鉄則である。

今回の調査は日本数学オリンピック、全国高校化学グランプリ、数理の翼夏季セミナーの3つの参加者が対象だったのだが、数学オリンピック以外は記事ではノータッチだった。化学者としては、化学グランプリについても触れて欲しかったところである。

アンケートの回答を寄せた数学オリンピック国内予選通過者296名のうち、数学研究者になる人は新聞記事の通り1割以下であるが、その中の成績上位者である国際数学オリンピック出場経験者では大半が数学科に進学し、研究者を志している。

全国高校化学グランプリ出場経験者は理学部化学系、工学部化学系に進学する割合が高い。これは数学オリンピック出場経験者が数学科に進学する割合よりも高いようである。

以下は雑感。

数学研究者の道が狭き門というのは事実である。そもそも数学自体を研究できる場所は大学か、公的研究機関しかない。これが化学や応用物理と異なる点で、化学や応用物理の専攻なら、実用志向さえあれば、企業の研究者として十分活躍できる。しかし、数学そのものの研究者を雇う企業はほとんどない。

いわゆるオーバードクター問題、博士課程を修了して博士となっても、定職につけない問題がもっとも顕在化していたのが、理学部数学科であった(次に顕在化していたのが理論物理の分野)。産業と直結しない分野が就職難になるのはある程度やむを得ない面もあるが、国としてこういった基礎研究をサポートする姿勢も大切だろう。

私が高校生だったときも、「理学部数学科に進学して大学院まで出ても就職はない、数学が好きなら、工学部○○工学科に行けばよい」と進路指導されていたものである。理学部数学科の学生が自主的にやっていた学科紹介の企画でも「博士課程を出た後、十数年我慢すれば、助手になれるんですよ」と冗談か本当かよくわからない説明をされて、笑いを誘っていたこともあった。

数学の得意な人間が数学科に進学しないのはそれほど深刻な問題ではない。機械工学、電気工学、材料工学、建築工学、化学工学など多数ある工学の諸分野でも数学は多分に活用されるので、数学の能力を存分に生かすことができる。数学が必要なのである。

数学オリンピック参加者の2割が医学部に進学していると、それが問題であるかのように指摘されていたが、医師の能力も統計学、空間認識力、パターン認識力、論理的思考能力など数学的能力が必須であるように思える。

また、忘れてはならないのは、高校生で習う数学と、大学で習う数学は違うということである。

こんな話がある。

大学で習う生物は高校の化学っぽいことがたくさん出てくる。大学で習う化学は、高校の物理っぽいことがたくさん出てくる。大学で習う物理は、高校の数学っぽいことがたくさん出てくる。

では、大学で習う数学はどうなるのか?というと、哲学になる。

まあ、数学が哲学になるというのは極端な物言いだが・・・

大学の化学(物理化学、無機化学、分析化学、量子化学など)を理解するのに、高校の物理の考え方が必要なのは事実である。大学の物理を理解するためには、道具として数学がどうしても必要である。

高校で習う数学は数学IIIも含めて、すべて役に立つものである。ここで役に立つというのは日常生活でという意味ではなく、産業分野でという意味である。

では、大学の数学はというと・・・、大学で習う数学は大きく分けて2種類あり、主に工学部で教える役に立つ数学(応用数学)と、主に理学部数学科出身の先生が教える、どう役に立つのかわからない数学(純粋数学)である。

応用数学は、例えば波の時間変動をフーリエ変換すると周波数がわかりますよとか、行列を使うと連立方程式が解けますよとか、ラプラス変換を使うとなんと微分方程式が解けますよとか、ガウス平面を使って原点を一周すると積分値がエレガントに求まりますとか、なるほどこんな風に役に立つのかと、感動することもある(個人差はあるが)。

純粋数学は距離空間の定義だとか、点列コンパクトだとか、デーデキントの定理だとか、どう役立つのかピンと来ない概念を習うものである。大学1年生のときに、私のクラスを担当した先生(理学部数学科出身と思われる)は、点列コンパクトについて講義されていたが、結局なんのことやらわからなかった。私は高校時代、数学が好きだったが、純粋数学は嫌いになった。

高校範囲の科目を習っただけで、進路を決定するのは高校生にとって酷なことである。大学範囲の学問に少しでも触れる機会があればいいのにと思う。

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