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2007年1月26日 (金)

2007年度の講義日程

2007年度、私が講義等で埋まっている時間は下記の通り

春学期(4月7日~6月30日)

 月曜 1~2限 無機化学1

 木曜 6限 無機化学1

 金曜 4~6限 専門実験・演習2

 他2コマ ゼミ

秋学期(8月28日~11月17日)

 月曜 1限 安全工学(バイオ化学科) 2限 安全工学(環境化学科)

 金曜 4~6限 専門実験・演習2

 他2コマ

冬学期(11月28日~2月27日)

 火曜 1限 無機機能化学

 木曜 1~2限 無機機能化学

 木曜 4~5限 化学コンピュータ演習

 金曜 4~6限 専門実験・演習2

 他2コマ ゼミ

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2007年1月 8日 (月)

2次元結晶の粉末X線回折

2次元結晶の粉末X線回折パターンのピークは左右非対称になり、右側だけに広がって裾を引いた形状になる。なぜか書いてある専門書を見かけないので、ノートしておく。この項目は専門的な話になる。

2次元結晶とは、3次元空間におけるa軸、b軸、c軸のうち、a軸とb軸方向にしか規則性がないものである。イメージとしては次のどれでも良い。

  1. 細長い円柱が平行に規則正しく並んでいるイメージ(缶ジュースが規則正しく並んで箱に詰められている形、タンパク質などで見られることがある)
  2. 原子が平面状に規則正しく並び1枚のシート(層)を作って、その層が等間隔で重なるが、向きが異なっているというイメージ(層同士は平行だが、層同士が並進操作の関係になく、c軸中心の回転操作を伴う。重なるときに、同じ位置が上下に来るなどの規則性があれば3次元結晶となる)。
  3. 原子が平面状に規則正しく並び1枚のシート(層)を作って、その層が平行に同じ向きに重なる(並進操作で重なる)が、その層間隔がランダムである(等間隔でない)。

※ 粉末X線回折では多結晶試料のときもそうであるように、数多くある面のうち特定の向きにある面(層)だけを観察することになる。だから、2.に書いたイメージからX線で観察される方向を向いている層(面)だけを取り出せば、3.のイメージと同じになる。

グラファイト(黒鉛)は炭素原子が共有結合で平面状の層を作り(炭素は正六角形を作るように結合)、その層がファンデルワールス力で規則的に積み重なったものである。通常のグラファイトは、正六角形の中心の位置に、上下の層の炭素原子が来るように重なっているので、3次元結晶である。

熱処理した一部のグラファイトはこの層の重なり方が乱れて、2次元結晶となることが知られている。1枚の層はしっかりと共有結合で平面を形成しているが、層が重なるときの向きがランダムになるのである。ただし、層同士は平行で、層同士の間隔も通常のものとほぼ同じである。

この2次元結晶となったグラファイトの粉末X線回折パターンでは

 (00ℓ)のピークは通常の粉末X線回折と同様に出現する

 (hk0)のピークは左右非対称になり右側に広がった形状となる

 (hkℓ)のピークは観察されない

となる。ただし層の方向をa軸、b軸、層に垂直な方向をc軸とする。

2dxrd 左図は、2次元結晶となったグラファイト(熱処理したカーボンブラック)の粉末X線回折パターンである。左から(100)、(004)、(110)。(100)、(110)のみ右側に広がり、(004)は通常の形状をしている。この図はB. E. Warren, "X-ray Diffraction in Random Layer Lattices", Phys. Rev. 59, 693-698 (1941).からの引用。余談だが、Laue(ラウエ)が、X線回折の測定結果が規則的な模様になることを報告したのが1912年である。その当時はまだそのような模様が得られる理由がよく説明されていなかった(結晶によるX線の回折という現象自体よく知られていなかった)。Laueの報告と同じ年の1912年、Bragg(ブラッグ)が早速、Laueの結果を解析して、かの有名なBraggの式(2d sinθ=nλ)を提出したのであった。今では高校物理で学習する簡単な式であるが、最初に導出するときには相当の苦労があったはずである。上記の2次元結晶を扱った論文はそれから29年後に提出されたことになる。

ピークが右側に広がる理由については、逆格子を用いた説明が上記論文に記載されているが、逆格子を用いなくても直観的に説明することができる。

まず、逆格子を用いた説明であるが、これを理解するためには逆格子の概念とエバルト(Ewald)の作図(エバルト球ともいう)が予備知識として必要である。

エバルトの作図は、ブラッグの回折条件を逆格子上で視覚的(図形的)に表現したものである。(キッテル固体物理学入門 amazonへリンク第2章あたりか、カリティ『X線回折要論』 amazonへリンクを参照)

逆格子上にベクトルk(入射X線の波数ベクトル)を、ベクトルの終点に逆格子点が来るように描く。kの始点を中心として半径|k|の球面を描く。この球面が他の逆格子点を通れば、回折が起きる(ブラッグの回折条件を満たすことになる)。球の中心からその逆格子点に向かうベクトルをk'とすれば、kk'のなす角がブラッグ角である。

3次元結晶の場合、逆格子点はごく小さい球であり、その球と上記のエバルト球が交わった部分の面積が回折ピーク強度となる。もし、逆格子点が大きさのない点ならエバルト球の半径は幅のない一つの値に決まるのだが、実際には逆格子点が点ではなく大きさのある小さい球だから、交わるエバルト球の半径にはある程度の幅があることになる。エバルト球を徐々に大きくしていけば、ある半径で逆格子点(小球)と交わりだして、ある半径で交わるのをやめる。交わる部分の面積は増えてから減るのだが、この増え方と減り方はほぼ同じペースだから、回折パターンに現れるピークは左右非対称にはならない。

一方、2次元結晶の逆格子は3次元結晶と異なって、点(小球)ではなく、細い円柱が平行に規則的に並ぶ。上記の特殊なグラファイトの例ではc軸に平行に細い円柱が並ぶ(c軸方向には無限の長さと考えてよい)。同様にエバルト球を考えると、今度は円柱と球面と交わる面積を考えることになる。エバルト球をだんだんと大きくしていくと、円柱と交わり始めるが、今度は円柱の長さが無限なので、いくらエバルト球が大きくなっても一部はずっと交わり続けることになる。これが回折パターンで右側に裾を引く理由である。上記論文では、逆格子上で交わる部分の面積をもとにして、回折強度が計算されている。詳細は論文を見て欲しい。

次に、逆格子を使わない直観的な説明

上記グラファイトの(100)面を考える。

3次元結晶の場合なら、(100)面をはじめとして、(101)、(102)、(103)、(104)、(105)、(106)、(107)、(108)、・・・・と不連続に次々と回折ピークが出現する。ac面で投影した図を描いてみて欲しい。

2次元結晶として冒頭に書いたイメージのうち、3番目を考える。c軸方向の面間隔がランダムということは、3次元結晶で描いたab面をそれぞれ上下に任意に動かした場合に相当する。すると、上では(101)、(102)、(103)、(104)、(105)、(106)、(107)、(108)、・・・・と不連続に現れていたピークが、連続的に現れてくるということになる。これらのピークは(100)の現れる場所に連続して引き続いて現れるはずである。これが右側にピークが広がる理由となる。

以上は、私が大学院生時代、現京大助教授の日比野光宏氏(当時彼も同じく大学院生だったが)とディスカッションした内容にヒントを得たものである。氏は、逆格子を使って解析していたが、私は実格子で説明するとどういうイメージなのか、リートベルト(Rietveld)法による構造解析はできないのかなど考えていた。当時、馬鹿でかいSun製のUNIXワークステーションを使ってリートベルト解析を行っていたのが懐かしい。2次元結晶には空間群が定義できないので、リートベルト法の適用は現状では無理であろう。2次元結晶向けにプログラムをゼロから組めば同様の解析は可能かもしれないが、かなりの労力を要すると思う。

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2007年1月 5日 (金)

フラーレンと分子軌道法

サッカーボールと同じ構造をもつフラーレン(fullerene)C60は、1985年にRobert F. Curl Jr.、Sir Harold W. Kroto、Richard E. Smalleyの3名によって発見された。彼らは、この業績で1996年にノーベル化学賞を受賞している(The Nobel Prize in Chemistry 1996, "for their discovery of fullerenes")。

サッカーボール状の炭素分子C60が存在するという理論的な予測は、1970年に豊橋科学技術大学の大澤映二教授によってなされている(大澤映二、「化学」、25巻、854頁、1970年)。「化学」誌は化学同人の発行する一般向けの科学雑誌で、書店で販売されている。この論文は、こんな面白い構造の物質の存在が予測できました、という長さ1ページ程のの短いコラム風の解説記事であった。今ほどコンピュータが発達していない1970年に既にその存在が予測されていたのである。

フラーレンの発見に関して、興味深い逸話がある。

実は、彼ら以前にも彼らに近い手法で、新しい炭素材料の合成を試みていた化学者は少なくなかった。フラーレンC60の発見後、その実験データ(質量分析スペクトルなど分子量がわかるデータ等)をもう一度、詳しくよく見てみると、わずかであるが、分子量720のC60の場所にピークがあったそうである。ノイズと見間違うレベルなので誰も気に留めなかったという。つまり、1985年の発見以前にもC60は存在していたし、その測定データもノイズと間違われるレベルではあるが存在していたのだった。そもそもサッカーボール状のC60があるのでは?ということを、念頭において研究していないから、見落としていたのだろう。

一方、C60を発見した3人は、つね日ごろからサッカーボール状の分子のことを考えていた。サッカーボールと同じ構造をしたジャングルジムで子どもの頃から遊んでいて、そんなことを考えていたという。

C60フラーレンC60は、5員環(5角形)12個と6員環(6角形)20個から構成されている。正20面体(正三角形20個で構成)の頂点部分を、スパッと切断した形をしているので切頭20面体と言われる。(正20面体は一つの頂点に正三角形5個が集まっているので、そこを切れば5角形ができる。正三角形をしている各面は3つある頂点を全部切断されるので、6角形になる)

C60分子を描くときは、5員環には5個の6員環が接し、6員環には6員環3個と5員環3個が交互に接するように描く。炭素・炭素の二重結合は5員環にはなく、6員環同士が接する場所に存在する。

■ 分子軌道法によるC60の構造の最適化

「化学コンピュータ演習」の講義で、分子軌道法を用いて、C60の構造の最適化を行ってみた。このようなことは論文にならないので、ブログに記録することにする。

以下は、特に記した以外、初期構造をまず分子力学法(MM3)で最適化し、その後、分子軌道法(MOPAC2002)のPM5ハミルトニアンを使用して、最適化したものである。なお、本学では贅沢なことに富士通CAChe 6.1を教材として用いているので、以下の図、結果はCACheを用いて描いたものである。また、以下はフラーレンの実際の生成過程を表している訳ではない。

C20_2 まず、5員環を中心に置き、その周囲に6員環5個を置いて、C20分子の構造を最適化した。その結果、C20では平面構造のままであった。6員環の結合角は本来120度が安定のはずだが、そこを無理する形で歪んだ6員環となって、きれいな平面構造を保っていた(左図)。

C40mm3C40  次に、さらにその外側に5員環5個、6員環5個を置いて、C40分子の構造を最適化した。分子力学法で最適化した結果はいびつであるが(左側)、その後、分子軌道法で最適化したところ、美しい半球状になった(右側)。

C55 さらに、その外側に5員環5個、6員環5個を置いてC55分子の構造を最適化した(上の半球となった構造の外側に追加した)。その結果、あと一歩で球となる構造となった(左図)。はじめは平面だったものが、だんだんと丸まってくる様子がわかる。

C60_1 これが最後だが、さらに5原子追加し、C60分子として構造を最適化した。きれいな球となり、究極の対称性が得られた。

点群 Ih

炭素・炭素の原子間距離(PM5ハミルトニアン)

 1.461Å(5員環と6員環の接する結合)

 1.373Å(6員環同士が接する結合 二重結合)

※原子はすべて等価だが、結合は等価でないことがわかる

ちなみにPM3ハミルトニアンでは、1.458Å(5員環と6員環の接する結合)、 1.384Å(6員環同士が接する結合 二重結合)。AM1ハミルトニアンでは、1.464Å(5員環と6員環の接する結合)、1.385Å(6員環同士が接する結合 二重結合)。PM3やAM1はC60が発見される前のデータが使われているが、それでもよく一致している。

■ B60はフラーレンと同様に、サッカーボール状になるか?

B60 原子番号が炭素より1個少ない、ホウ素Bでもフラーレン同様の球状分子B60ができるか計算してみた。初期構造として、C60のCをBに置換した構造をとり、二重結合は、単結合に変更した。PM5を使用して、最適化した結果、同じく球状の分子が得られた。点群IhなのでC60同様の高い対称性である。結合距離(参考程度)は1.659Å(6員環同士の結合)、1.676Å(5員環と6員環の接する結合)。理論的にはB60の存在も予測されたことになる。余談だが、このBとBの間に酸素原子を置いた球状分子B60O90ができないかどうかも興味のあるところである。

■ Si60はフラーレンと同様に、サッカーボール状になるか?

Si60 周期表で炭素のすぐ下にあるケイ素でフラーレン同様の球状分子Si60ができるか計算してみた。初期構造として、C60のC原子をSi原子に置換した構造を用いた。Siの場合はPM3、PM5にデータがないので、AM1を使用して最適化した。その結果、同じく球状の分子が得られた。点群IhなのでC60同様の高い対称性である。結合距離(参考程度)は2.092Å(6員環同士の結合)、2.298Å(5員環と6員環の接する結合)となった。理論的にはSi60の存在も予測されたことになる。

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