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2007年2月12日 (月)

モノを温めるのに最低限、必要なエネルギー

ここでは、モノを温めるのに最低限、必要なエネルギーを熱力学的に計算して、速度と効率は両立しないという経験的な法則を考察する。(注 一般に、よく誤解されるが、ここでいう「効率」とはスピードの意味ではなく、有効活用できるエネルギーの割合の意味)

■ 電気ストーブとエアコン

単純な例で考える。1000W(ワット)の電力を消費する電気ストーブと、同じく1000Wの電力を消費するエアコンとでは、どちらの暖房能力が優れているか?

答えはエアコンである。電気ストーブは1000Wの電力を消費して、約1000Wの熱しか放出しないが、エアコンでは1000Wの電力を消費して、約3000W以上の熱を発生させることが可能である。これについてエネルギー保存則に反すると思う人がもしいたら、熱力学第1法則だけ知ってて、熱力学第2法則を勉強していない人であろう。暖房エアコンは、電力を使って、部屋の外から中へ熱を移動させる装置であり、約1000Wの電力を使うと、部屋の中に約3000Wの熱を得ることができる。外気温によって、効率が違ってくるが、だいたい消費電力の約3~5倍の熱をゲットできるようだ。

このように熱を移動させる装置をヒートポンプと呼ぶ。電熱線を使うヒーターより暖房効率が格段によく、内と外を逆転させれば冷房もできる。そもそも電気ストーブは火力発電、原子力発電で熱をせっかく電力に変換したのに、それを再び電力から熱に戻してしまうわけなので、暖房器具の中でも最もムダが多いものである。ちなみに電力会社がさかんに宣伝している「エコキュート」は、深夜電力を使って、ヒートポンプを動かす仕組みで、効率面では優秀である。しかし、余談だが、エコキュートでの室内暖房は、深夜電力で暖めた蓄熱体で暖房するため、暑くなったときでもOFFできないらしい。

■ ヒートポンプでお風呂を沸かす

ヒートポンプの存在を踏まえた上で次の問題を考える。

20℃の水200リットルを、40℃のお湯に変えるために最低限必要なエネルギーはいくらか?

まず、ガスや灯油を燃焼させて、加熱した場合は単純に計算できる。実際には熱が一部逃げたりするが、ここではそれは考えず、燃焼熱がすべて水の昇温に用いられたとする。1カロリーの熱で水1グラムが1℃上昇するので、

200×1000×(40-20)=4000000 cal (カロリー)

                 =4000 kcal(キロカロリー)

あればよい。SI単位に直せば、4000×4.2=16800 kJ(キロジュール)

次に本題だが、ヒートポンプを使って沸かせばどうなるか?上のエアコンの例から考えれば、これの3分の1から5分の1のエネルギーで済む。だけど実際には、ヒートポンプで、お風呂を沸かすことはあまり現実的には行われていない。理由は単純で、時間がかかるからである。最近、ヒートポンプで給湯する「エコキュート」が実用化されているが、お湯を沸かすのに時間がかかるため、沸かしたお湯を貯めておく仕組みになっている。ヒートポンプでは、瞬間湯沸かし器並みの速度は、期待できないのである。効率を上げようとすると、速度が犠牲になる代表例。速度と効率は両立しないのだ

■ より理想的なヒートポンプを考える

今、実際に使われているエアコンは効率がいいけれども、それをもっと効率良くすることもできる。例えば、暖房温度を25℃に設定した場合、エアコンの送風口から出てくる風の温度は25℃ではなく、約50℃前後である。風の温度が50℃なら、エアコン内部で、風を暖める熱交換器はそれ以上の温度になっている。25℃に設定したときに、50℃の風が出るのは部屋を早く暖めるためだが、熱が逃げなければ25℃の風が出ればよいのである。ただし熱が逃げないと仮定しても、部屋が25℃になるまではだいぶ時間がかかるだろう。速度は落ちることになるが、ヒートポンプの効率は25℃の風を出したときの方が良くなる。

エアコンなどヒートポンプの内部には作動流体が流れている。昔はフロンガスが使われていたところだ。これが低温側(部屋の外)で熱を吸収して、高温側(部屋の中)で熱を放出する。ヒートポンプの効率は作動流体の高温側の温度と低温側の温度で決まる。カルノーサイクルを使った仮想的なプロセスが最も効率がよいので、それを考えることにする。そのとき、高温側の絶対温度をTH、低温側の絶対温度をTL、消費電力(仕事)をW、高温側で発生する熱をQとすると

 W/Q = (TH-TL)/TH

の関係が成立する。50℃の風を出すときは25℃よりもTHが大きくなるため、W/Qが大きくなり、消費電力が増える。

■ ヒートポンプを使うと理論上、従来の3%のエネルギーで温められる

では、お風呂に話を戻して、20℃の水を40℃のお湯にすることを考える。上の式のTHの313K、TLに293Kを代入すると

W/Q=(313-293)/313

    =0.0639=6.4%

つまり、ガスを使った場合の6.4%のエネルギーで、水をお湯にできることになる

実はこれが最も理想的な最高効率の数字ではない。もう一段階掘り下げて考えると、さらに効率がアップする。

上の6.4%の計算では、作動流体の高温側の温度が、はじめから最後まで40℃で一定に設定していた。しかし、水がまだ20℃のときに40℃の作動流体を接触させる必要ないのである。水が20℃のときには作動流体を21℃にしておき、それで暖め、水が21℃に暖まったら、今度は作動流体を22℃にして暖める。水が22℃になったら、今度は23℃の作動流体で・・・という風に、細かくヒートポンプ高温側の設定温度を上げていき、最終的に40℃にすることを考えればよい。ここでは、わかりやすいように1℃ずつ設定温度を上げると書いたが、厳密には水よりも微小に高い温度(ΔT だけ高い温度)を作動流体の高温側の温度にして、徐々に昇温させ、そのプロセスを積分して考える、と説明するのが正しい。

上式のTLに293Kを代入して、THは変数のまま、TH=293Kから313Kまで積分することになる。

  ∫(T-293)/T dT   ※ ∫の上に313、下に293を書く

  =[ T-293 ln T ]   ※ ]の上に313、下に293を書く

  =0.653

これを積分した温度幅(313-293=20K)で割ったものが、W/Qとなる。

  0.653/20=0.033=3.3%

20℃のものを40℃にするとき、理想的なヒートポンプを使うと、従来の約3%のエネルギーで済む、すなわち30倍以上効率がよくなることを示している。

ただし、このようなヒートポンプを使うことは非現実的で、速度が遅すぎて役に立たない。この場合だと速度が熱のロスに追いつかないであろう。

速度とエネルギー効率は両立しない、トレードオフの関係にある、というのことは、熱力学第何法則というように、ソフィスティケートされた法則ではないが、経験的には確かな「法則」である。

以上は、昭和の終わりの頃、現東大総長の小宮山宏先生が助教授のときに担当されていた「移動速度論」の講義で伺った話をヒントにしたもの。先生は、講義時間の都合からか、3.3%で済むという数字だけを引用されていたが、その理屈は上記のようなものであると思う。当時、「エコキュート」はまだ世に出てなかったから、給湯にヒートポンプを使うという発想は実用化されていなかった。

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