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2007年4月14日 (土)

これまでの研究での「中発見」のまとめ

先日、広報活動に使う教員録を作成するとかでプロのライターに取材されたのであるが、その中で「実験に失敗しても、何かに生かす、柔軟な発想が大切」と語ったら、これまでの研究と絡めて、その点について詳しく話を聞かせてくださいということになった。そんな話をまとめてみた。なお、私の専門分野は無機材料化学である。

私はこれまでの研究生活で、大発見というと大げさだけれども、中発見といえるような発見をいくつかしてきた。新しい研究テーマとして数年間以上、展開し、学術論文や特許が数件書けて、新聞や雑誌などでトピックスとして取り上げられそうな発見である。私のしたのと同じようなレベルの発見を、大げさに脚色して「大発見」と自ら主張するスタンスをとる研究者もいるとは思う。

で、以下はその「中発見」。

■ 不定比酸化チタンの熱電変換効果の発見

Red  酸化チタンはTiO2の化学組成をもつものが一般的だが、一部TiO2-xのように、酸素の組成が2より少ない数になっているものがある。このような化合物でマグネリ相と呼ばれるものは昔から知られているのだが、その系統とは別の化合物があることを発見したのである。950℃の水素中でTiO2(アナターゼ型、あるいはルチル型)を焼成することで作れるのだが、1時間焼成すればTiO1.94、2時間焼成すればTiO1.91という風に酸素の組成は連続的に変化していく。結晶構造はルチルとも、アナターゼとも、マグネリ相とも違う斜方晶で、色はTiO2とは異なり濃青色である(写真)。ちなみに950℃ではなく、800℃だとか、600℃の水素中で酸化チタンを焼成すると、色が淡黄色から、少し水色っぽい色に変わるが、結晶構造はルチルと同じである。この水色のものは昔から知られていて古いPhysical Review誌にも登場しているのだが、斜方晶のものはこれまで知られていなかった。950℃の水素中という条件がポイントのようである。

ここまででも「中発見」といっていいと思うが、さらに面白いことを発見した。

この新しい不定比酸化チタンの電気抵抗を、温度を変えながら測ろうと、予備的にホットプレートの上にペレット(粉末を錠剤型に加圧成型したもの)を載せ、テスターを当ててみた。すると、テスターの電極のプラスとマイナスを入れ替えたときに抵抗値が違うのである。これはおかしいと電圧計やら、定電流電源を持ってきて精密に測ってみると、ペレットに起電力を生じていることがわかった。しかも、さらに精密に測ると温度差があるときだけ、起電力が生じていた。ゼーベック効果であった。文献を調べてみると、ゼーベック係数が他の物質より大きく、期待できる物質だということがわかった。これは熱電変換効果ともいい、温度差発電などへの実用化に向けて研究されている。原著論文PDF

電気抵抗がうまく測れていないのではという失敗っぽい実験結果から、新物質の熱電変換効果を発見した例である。

■ 水にたくさん溶けるホウ酸ナトリウム塩の開発

ホウ酸、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム十水和物)は、ホウ素系の無機化合物として一般的だが、あまり常温の水には溶けない(水への溶解度は20℃でホウ酸3.99、ホウ砂2.58)。ホウ酸やホウ砂はセルロース系のもの(木材、紙、木綿)の内部にしみこませると、燃えにくくなるいわゆる不燃・難燃効果があるのだが、水に溶かしても薄かったためにその効果が小さかった。そこで、濃いホウ酸塩水溶液を作れないかというのがテーマとなった。作り方はここでは省略するけれども、ホウ酸の8倍以上の濃度のホウ酸塩水溶液を20℃で作れるようになった。

従来の難燃剤はハロゲン系、リン系、アンチモン系など環境保全上、頭の痛いものが多いのだが、この高濃度のホウ酸塩水溶液は新しい不燃・難燃剤として既に実用化され、あちらこちらの材料に使用されている

どうやって高濃度のホウ酸塩水溶液の作り方を発見したかであるが、ホウ酸塩にはいろいろな種類があるけれど、それらを同時に溶かしたら、それぞれの飽和濃度まで全種類が溶け切るのか、それとも一部が沈殿してくるのかというようなことが、発見のヒントになっている。一言でいえば、いろんな重合度(縮合度)のポリホウ酸イオンを水溶液に溶かしてあるということである。原著論文PDF

■ 準弾性レーザー散乱法の新しい測定原理の発見

準弾性レーザー散乱法は、液体表面や液体同士の界面に発生している表面張力波(界面張力波、リプロン、ripplon、capillary wave)と呼ばれている波の振動数を計測して、表面張力(界面張力)を求める方法である。非接触で、しかも高速で経時変化を追うことができるという点がメリットである。しかし、計測する表面張力波が非常に弱いものであるため、信号が汚く、回折格子を使用するなど計測装置の組み立てに高度な技術が要求された。新しく考案した原理では、回折格子を使用せずにレーザーを当てるだけで、従来よりも桁違いにきれいな信号で測定できるようになった。原著論文PDF日本国特許第3839234号

発見の端緒は、大きなピーク(それまではノイズだと思っていた)がスペクトルに出現していたのだが、回折格子を使っても使わなくても出現しているにもかかわらず、測定試料を外すとそのピークが消えたことであった。それまではノイズだと思い込み、誰も気を止めていなかったのだが、表面張力を変えるとその「ノイズ」まで一緒に動くことを確認し、理論的な解析を経て、新しい原理の発見となったのだった。

この方法で、海洋掘削した地中のマグマの表面張力をとらえようという話もでてきているようだ。

■ 水の吸着で電気抵抗が増加するタングステン複合酸化物の発見

一般に物質に水が吸着すると、電気抵抗は小さくなる。水が電気を通すためである。水の吸着で電気抵抗が増える物質などこの世にはなかった。

私が大学院生のときであるが(1991年暮れ)、新しい合成法で作ったカリウムタングステンブロンズ(K0.3WO3)が水の吸着で、電気抵抗が増加することを発見したのである。この水の吸着で抵抗が増えるメカニズムを解明し、湿度センサへの応用の可能性をまとめたものが私の博士論文となった。昨年暮れに亡くなられた柳田博明先生が論文の審査をしてくださったのだが、この発表を柳田先生の前で行ったときには、すごく驚いた表情をされ、真剣に聞かれていたのが印象的だった。

もともとは単純に電気抵抗を測るのが目的だった。試料を加圧成形してペレットにし、ペレットをもう一度電気炉で焼いた後に、電気抵抗を測定したのだが、電気炉から出して電気抵抗を測ると、電気抵抗がみるみる増加する。少し増えるではなくて、桁違いに増えるのだった。何回やってもそうなるので、4回目くらいのときに電気炉から出さずに、電気炉の中で測ってみた。そうすると抵抗は変化しなかった。電気炉の中は乾燥した水素だったので、原因は酸素と水蒸気が考えられる。正しくは湿度(水蒸気)だけが原因だったのだが、当初、私はこれを間違えて、酸素の影響もあると考えてしまったのだった。苦い思い出である。

電気抵抗の変化を、もう少しで焼結の失敗とネガティブに解釈するところだったが、冷静に理由を解明して新事実を見出した。これも一見、失敗ぽいけれども、突き詰めると新事実が隠れている例と言えると思う。

この研究成果は日本化学会の「化学と工業」誌の1998年2月号に化学のフロンティア特集としても掲載された。

30代になると、自分の研究と言っても、自分で手を動かして行う実験と、学生・院生にやらせる実験の2種類があるのだが、上に書いた4つの発見は、自分で手を動かして実験していたときに見つけたものである。

学生・院生にやらせていた実験でも、色々と発見はあったがまた別の機会にまとめることとする。また、上のような発見以外にも、発見をベースとしない地道な研究、例えばX線吸収微細構造によるセメント中微量重金属の分析なども行ってきたのだが、これについても機会があれば紹介することにする。

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コメント

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投稿: Qnpqbpac | 2007年10月17日 (水) 19時20分

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