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2007年5月12日 (土)

MiniflexでRietveld解析はできるか

Xrd 私の研究室には小型の粉末X線回折装置(XRD)のMiniflex(ミニフレックス、リガク製)がある。机上に置いて測定でき、運ぼうと思えば、二人で運べる程度の大きさで、価格は数あるX線回折装置の中で最も安い。通常の粉末X線回折装置は、畳2つ分くらいのスペースが必要で、価格も一千万円は下らないが、Miniflexは数百万円である。

うちの研究室から数分歩けば、共用設備の普通のX線回折も使えるのだが、自分の部屋で測定する方が楽なのでMiniflexを使って、久しぶりにRietveld(リートベルト)解析をしようとした。久しぶりというのはどのくらい久しぶりというと、12年ぶりである。コンピュータやネット環境が進歩し、以前は高価なUNIXのワークステーションで行っていた作業が、簡単にパソコンで行えるようになっている。

Rietveld法というのはその名の通りRietveldが提案した方法(H. M. Rietveld, J. Appl. Crystallgr. 2, 65 (1969))で、粉末X線回折パターンのピーク位置だけではなく、全データを使って、結晶構造を解析する方法である。ピーク位置だけを見て、人が手計算しても、格子定数、結晶系、せいぜい空間群くらいまでしか出せないけれども、全パターンのデータを使用して、コンピュータに非線型最小二乗法で計算させると、原子位置、占有率などの構造パラメーターまで出せるという代物である(『粉末X線解析の実際 リートベルト法入門』(中井泉、泉富士夫編著、朝倉書店)参照 amazonへのリンク)。

Rietveld法のプログラムとしては、物質・材料研究機構の泉富士夫先生によるRIETANが超有名で、日本人でいることを幸運に感じるくらいである。RIETANは「リータン」と発音し、「リエタン」ではない。最新のRIETAN-2000では、拡張子がintのファイルにデータ、拡張子がinsのファイルに初期値など設定を入れて、DD2という名のバッチファイルにドラッグアンドドロップするだけで結果が出てくる。

そのリートベルト法をリガク製のミニフレックスで、標準試料として提供されているシリコンを測定して、まず装置関数を求めようとした。しかし、うまくいかなかったのであった・・・。

Riexrd 左の図にピークの一つを示す。青が実験値(観測データ)、赤が理論値(シミュレーション結果)である。フィットの良さを評価するR値を見ても、Rwp=12.57%、Re=7.44%、S = 1.6891である。Reが統計的な限界を 表すので、RwpはReに近いほど良い。SはRwpとReの比から求めるパラメータで、フィットが完璧だと1で、1.3より小さければOKなのだが、標準試料で1.6891とはつらい結果である。

構造のわかっていない未知試料を解析したのなら、S値1.6891ならまだ改善の余地もあるというところだが、標準試料のシリコンでこれとは・・・と頭を抱えていた。12年ぶりで何か忘れている感覚があるのではと、プロファイル関数を変えたり、100回ほど試行錯誤を繰り返したがS値は下がらない。

リガクに電話して聞いてみる。「ミニフレックスでリートベルト解析はできますか?」「詳しいものに聞いたところ、無理じゃないかと言っています。Kβ線が入ることと、可変スリットなのが理由です」

無理なのか・・・。RIETAN-2000には可変スリット用の設定もあるのだが、どうも無理らしい。そもそも上記の結果が無理であることを物語っているが・・・。しかし、外国の文献でRigaku Miniflexを使って、Rietveld Analysis を行ったという報告も見かけるので、詳細はよくわからない。もし、Miniflexでうまい具合に、Rietveld解析を行うノウハウをお持ちの方がいたら、ぜひご教示ください。

---------- 追記 ------------
呉藤様より、コメント頂きましたが、シリコンは角度の標準として適切ですが、強度の標準としては不適切のようです。このため、リートベルト法の標準試料としてシリコンは良くないようです。S値が下がらなかった要因は、Miniflexを使ったためと、シリコンを標準としたためと2つ考えられると言えそうです。
-----------------------------

それで、気を取り直して、ミニフレックスではなく標準的な粉末X線回折装置で測定しなおしたところ、別の標準試料(ルチル型酸化チタン)でS=1.01となった。

めでたし、めでたし。

ちなみに、私は陽電子消滅法とRietveld解析(X線回折の)の両方を経験したことのある数少ない研究者であるが、格子欠陥(原子空孔)の評価を行いたい場合は、それぞれに一長一短があるように思う。Rietveld法で、原子の占有率gから原子空孔を評価しようとする場合、試料がきれいで、かつ原子番号の大きい原子でないとかなり厳しいと思う。占有率gは原子変位パラメータBとの相関が強いので、Bがはっきりと確定されていないのに、gの収束値を信用してよいのかという話になる。水素原子の数をX線で決めようなんていうのは論外だが、タングステンぐらいだときれいなサンプルでやれるのではないだろうか。

一方、陽電子消滅法は、陽電子が正の電荷をもつので陽イオンの原子空孔を見るにはよいが、陰イオンの原子空孔は観測できるかどうかわからない。新しい試料で測定する場合、陽電子の寿命と、その寿命をもつ陽電子の成分割合から評価するので、何を見ているかわからないという結論に陥りかねない。試料ごとに何を見ているかということをはっきりさせて(方法論として確立してから)、格子欠陥などの評価に用いる必要があるという意見をよく聞く。陽電子消滅法の場合は単結晶の方が解析しやすいが、逆に、Rietveld法は粉末試料(多結晶)のためのものである。

(注 Kβ線は、放射線のβ線とは違います。X線です。同様に、Kα線も、α線ではなくX線です。誤解があったので念のため)

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コメント

露本先生
先日のセラミックス協会ではお世話になりました。
先生のHPは面白くてためになるので、いつも拝見しています。
Miniflexのリートベルト解析の話ですが、標準試料としてシリコンを使ってもRは落ちないという話を泉先生から聞いたことがあります。角度標準であって、強度標準でないからだそうです。粒度が安定していないので、ロッキングカーブはギザギザだそうです。私もNISTの640cを測定したことがありますが、先生がMiniflexで測定したのと同じような値でした。違う装置でうまくいったというのが不思議です。
リガクのいうようにKbetaをカットできればうまくいくのではないでしょうか。

投稿: 呉藤勝彦 | 2007年11月19日 (月) 17時44分

コメントありがとうございます。先日はお疲れ様でした。

有意義な情報ありがとうございます。確かに実感としてシリコンとリートベルト法は相性が悪いです。

少し舌足らずなことを書いてしまいましたが、違う装置でうまくいったときの標準試料は、ルチル型の酸化チタンでした。標準用のシリコンはMiniflex用のものしか所有していなかったので。

冷静に考えると、Miniflexだから、うまくいかなかったのか、シリコンだからうまくいかなかったのか、両方の要因が考えられます。

投稿: tsuyumoto | 2007年11月19日 (月) 17時58分

うまくRを落とせたときの試料がルチルだと分かって納得しました。
Miniflexは以前の職場で使っていて、そのときは定性のみで使っていました。私もMiniflexでリートベルト法が使えるのか、ちょっと興味が湧いたのでコメントさせていただきました。Miniflexは、2thetaのマックスが大きくなかったようにも思いますし、入射角固定なので選択配向の影響はどうなのだろうかなどと、関心があります。ちなみに、シリコンは111で配向するそうなので、選択配向の影響も考えられます。
なにか分かりましたら教えてください。先生のブログを楽しみに見ております。

投稿: 呉藤勝彦 | 2007年11月20日 (火) 09時57分

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