ホウ酸、およびホウ酸塩の化学
ホウ酸、およびホウ酸ナトリウムに関しては、小学校の理科で習って以降、高校の化学でも出てこないし、大学の無機化学でもあまり触れられない。専門書では、ホウ素の酸化数がホウ酸とは異なるホウ素化合物についてはトピックス的に扱われているが、ホウ酸、ホウ酸塩について書かれているものはほとんどない。
ホウ酸、ホウ酸ナトリウムの基礎をまとめてある本が少ないので、以下にノートしておく。
■ ホウ酸とは
オルトホウ酸 H3BO3、メタホウ酸 HBO2、四ホウ酸 H2B4O7など、xB2O3・yH2Oの組成をもつ酸を総称してホウ酸と呼ぶ。しかし、通常、ホウ酸といえばオルトホウ酸 H3BO3のことをさす場合がほとんどである。以降、ホウ酸と記した場合は、オルトホウ酸を意味するものとする。
■ ホウ酸(boric acid)の構造と性質
ホウ酸H3BO3の化学式は、B(OH)3と表記されることもある。BO33-は平面構造で、これが水素結合で層を形成している。この層が0.318nmの層間隔で積層した構造となっているので、ホウ酸にはへき開する性質がある。
結晶は無色透明、片状の六角形である。20℃における密度は1.49 g/cm3、融点は184℃。
加熱すると、順次H2Oを失い、変化する。
オルトホウ酸 H3BO3
(約100℃) → メタホウ酸 HBO2
(約140℃) → 四ホウ酸 H2B4O7
(約300℃) → 酸化ホウ素 B2O3
最後に生成する酸化ホウ素はガラス状である。
水への溶解度は20℃で4.00 (水100gに対する溶解量(g))。溶解時に吸熱するため、加熱すると、かなり溶けやすくなる。OH基を有する有機溶媒には溶けやすいとされているが、OH基を有するアルコールと反応してエステルを生成する性質がある。
ホウ酸はきわめて弱い酸である。塩基との中和反応において、プロトンH+は放出せず、OH-を受け取る働きをする。つまり、厳密にはブレンステッド酸には分類されず、ルイス酸として作用する。
一段階目(次式)の酸解離定数K1(25℃)は 5.9×10-10
B(OH)3 + H2O → B(OH)4- + H+
二段階目、三段階目の酸解離定数(25℃)は
K2: 1.8×10-13
K3: 3.0×10-14
ホウ酸H3BO3の酸解離定数は、同じように三段階あるリン酸H3PO4の酸解離定数(K1から順に7.0×10-3, 6.3×10-8, 1.8×10-12)に比較しても、きわめて小さい。
ホウ酸水溶液をアルカリで中和滴定すると、二段階目、三段階目に行く前の、一段階目だけで、指示薬の変色点を超えて、アルカリ性寄りになってしまう。それほど弱い酸ということであり、通常の指示薬では正確に中和滴定できないことになる(pHメータを用いれば別)。
中和滴定でホウ酸を定量するときは、ホウ酸にマンニトールやグリセリンを加えてエステル化し、普通の強さの1価の酸(一塩基酸)に変化させてから、指示薬を用いて中和滴定を実施するのが普通である。
つまり、前処理後の中和滴定のときは一塩基酸(一価の酸)として作用することになる(前処理をしていないと一塩基酸よりも弱い)。ホウ酸のH3BO3という化学式からは、3価の酸として中和反応の計算を行ってしまいそうになるが、上述の計算のときは1価の酸とする必要がある。
■ ホウ素の炎色反応
ホウ素の炎色反応は緑色である。高校化学で習う「リアカーなきK村(Li:赤、Na:黄、K:紫)」に含まれていないためか、余り知られていない。
■ ホウ砂(ほうしゃ、borax)の構造と性質
天然に産出する主なホウ酸ナトリウムである四ホウ酸ナトリウム十水和物(Na2B4O7・10H2O)をホウ砂と読んでいる。化学式はNa2B4O7・10H2Oが用いられることが多いが、結晶中で[B4O5(OH)4]2-の存在が確認されたことから、Na2[B4O5(OH)4]・8H2O と表記されることも多くなっている。
水溶液からは、62℃以下で十水和物(Na2B4O7・10H2O)が析出し、62℃以上で五水和物(Na2B4O7・5H2O)が析出する。溶解度曲線が62℃で微分不可能となるのはこのためである。
350~400℃で無水物に変化、878℃で融解しガラス状となる。
密度はNa2B4O7・10H2Oが1.715 g/cm3、Na2B4O7・5H2Oが1.81 g/cm3。
米国ではBoraxoの商品名で、ホウ砂が配合されたセッケンが市販されている。
ホウ酸塩水溶液の相図はかなり複雑で、その溶液化学に関してもわかっていない点が多いようである。我々が発見した新しい高濃度のホウ酸塩水溶液も、そのわかっていなかった点の一部に存在したものであろう。
ホウ砂は、その凝固点降下の大きさから、水溶液中で下記のように電離して、元のホウ砂の6倍の物質量の化学種を形成しているとされている。
Na2B4O7 + 7H2O → 2Na+ + 2B(OH)4- + 2H3BO3
2003年という比較的新しい学術論文でも、ホウ砂水溶液中に含まれる化学種の物質量を議論したものがある(A. Apelblat, E. Manzurola, J. Chem. Thermodynamics 35, 221-228, 2003)。これはホウ砂水溶液の凝固点降下の大きさを精密に調べると、ホウ砂の7倍の物質量(モル)になったという報告で、上の式より、もっと複雑な反応が存在することを示唆している。
ホウ酸塩の濃度計算は、式量の算出、結晶水が溶質でなく溶媒になることなど、面倒くさいことが多い。「ホウ酸塩に関する計算メモ」参照。
以下の表はホウ酸、各種ホウ酸塩の溶解度(N. P. Nies, and R. W. Hulbert, J. Chem. Eng. Data, 12, 303-313 (1967)より引用)。注意 一般的な溶解度と異なり、飽和水溶液100gに含まれる無水物(xNa2O・yB2O3換算)の質量(g)で表記してある。ただし、ホウ酸だけはB2O3換算でなく、ホウ酸H3BO3の質量で表記してある。
ホウ砂(Na/B比0.5)では62℃以上の温度領域で、同じNa/B比の5水和物と4水和物(Kernite)、それぞれ2種類の溶解度が記載されている。これは一見、奇妙である(5水和物の飽和溶液は、4水和物に関して過飽和の状態となってしまう)。これに関しては、それぞれの上澄み液(液相)のNa/B比が違うとされている。
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コメント
はじめまして。
大学の卒業論文でホウ酸を使っています。
内容大変参考になりました。
ところで質問があるのですが、メタホウ酸などを発生させずにホウ酸を融かし、そのまま固めることはことは可能なのでしょうか?
ホウ酸の融点が184℃であるにもかかわらず、加熱するとメタホウ酸、四ホウ酸が発生すると書いてあったので。
よろしければご教授ください。
投稿: Dan | 2008年11月27日 (木) 23時42分