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2008年5月 8日 (木)

オービタル(原子軌道)を図示するときによくある混乱、間違い

高校化学で、原子内の電子は、K殻、L殻、M殻・・・といった電子殻に一定の規則で収容されていると習う。この電子殻はさらに細かく、s軌道、p軌道、d軌道・・・といったオービタル(orbital)に分かれている。

このオービタルの形を図で表現する際に混乱、間違いが多いようである。

2p軌道(2px軌道)を例にとる。

Orbital1_2

2p軌道を図で表すとき、上図のうち、いずれかの形状で表現されることがほとんどである。ここでは形状だけを問題にして、色の付け方、陰影は問題にしないものとする。

結論からいうと、(1)や(2)の図を使用して、2p軌道の電子密度の分布がこうなっているとか、2p軌道の電子雲の形がこうであるというのは間違いである電子雲の形、電子密度の分布を表現するのは(3)の図である。

(3)の図は、電子密度や波動関数の値が等しい値となる点を結んで面とした等値曲面(contour surface)を表した図である。この図を見れば、だいたいどういう領域に電子がいるかをイメージすることができる。
※電子密度は波動関数の二乗だが、この場合、形状は同じく(3)となる。

では、形状の異なる(1)や(2)はいったい何を表した図なのか。(2)は見かけることの非常に多い図である。(3)を近似したものではない。実は、(1)や(2)はpolar plot と呼ばれる図で、電子雲を直接表現した図ではない。polar plotは等値曲面、等電子密度面とは異なる

(1)について考えよう。まず原点(原子の中心、球同士が接しているあたり)をとり、原点から図の球の表面までの距離を考えると、この距離がその方向における波動関数の値に比例した値となる図である。(波動関数におけるrは一定と考えておく)。

(2)の場合も同様だが、こちらは原点から曲面までの距離が、その方向における電子密度に比例する図となる。(2)は、(1)の距離を二乗したものである。

重要な点は、2p軌道の電子雲の分布、電子密度を表現するのに(2)の図を使うのは間違いで、(3)の図が正しいということである。

例えば、高校参考書のチャート式「新化学II」では、2p軌道の電子雲モデルを表現するのに(2)の図を使っているが不適切である。こういった例は意外に多い。

ここら辺の議論はO. Kikuchi and K. Suzuki, Journal of Chemical Education, 62, 206-209 (1985).に非常にスマートにまとめられている。

以下、図を引用して、解説する。

Fig1

2p軌道の波動関数において、rとθを一定と考えると、φの項だけが残るわけだが、その項はcos φである。図(a)のように作図すると、OPの長さがcos φに比例するようになる。図(a)の内側の2つの円が波動関数のpolar plotとなる。図(b)は、OPの長さがcos φの二乗に比例するように作図したもので、電子密度のpolar plotである。図(c)、図(d)はそれぞれ波動関数、電子密度が同じ値となる点を線で結んだものである。いわば波動関数、電子密度の等高線のようなものとなる。

電子分布を表現するのには(c)、(d)が適切で、(a)、(b)は不適切ということになる。

現在、等電子密度面の計算、図示などはPCを用いれば比較的簡単にできるので、polar plotなどで図示せず、等電子密度面(等値曲面)で示して欲しいものだ。上に引用した論文の著者らも、20余年前に同じことを述べている。

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