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2008年6月 3日 (火)

「最小時間の原理(フェルマーの原理)」と「最小作用の原理」

物理法則の中には、人類の世界観や哲学にまで影響を与えるものがある。

「フェルマーの原理」や「最小作用の原理」がその代表例である。これらの法則は一見、神秘的な不思議さをもつので、18世紀中頃にはイデオロギー論争まで巻き起こした。これらは純粋に数学的、物理的な原理に過ぎないのだが、その不思議さゆえ、背景に神学的な観念を見いだそうとする人々がいた。

■ フェルマーの原理(最小時間の原理)

真空中の光速は3.0×108m/sだが、物質中を通過するときの光速は、物質の屈折率で真空中の光速を割ったものになる。空気の屈折率は1だが、水の屈折率は1.33なので、水中を光が通過するとき、光速は真空中の1.33分の1、ほぼ75%まで減っている。

さて、空気中のA点から、水中のB点まで光が進むことを考える。よく知られているように下図の実線のように、境界面にあるC点で少し折れ曲がって、B点に到達する。C点でこういう折れ曲がり方をするのは、水と空気の屈折率が異なるためである。

それぞれの入射角のsinをとったものの比が、それぞれの屈折率の逆数の比に等しいというスネルの法則で角度を求めることができる。

Fermat1

光の進む経路は、上に述べたような計算で求まるのであるが、この経路は実は他の経路、例えばAからBまでまっすぐ直線で向かうだとか、A→X→Bの順で向かうだとかのどんな他の経路よりも、必ず早く着くようになっている。光は水中で遅く、空気中で速いので、水中を進む距離はできるだけ短い方がいいが、かといってあまり短くすると空気中の距離が長くなりすぎて、逆に時間がかかる。この2つがちょうどよいバランスになって、最小時間となったのが、実際の経路である。まるで、光は最小時間となる経路を探し当てたかのように、最小時間となる経路を進む

光がそんなことを考えながら、つまり経路を探索しながら、進むのかという点がポイントである。

私は高校時代、この話を聞いたとき、隣席の友人と、「光がそんなことを考えながら進むんかいな?」と言い合った記憶がある。

光は別に考えながら進むわけではない。水と空気の境界面で電磁場の強度が連続であるという条件から導き出されるスネルの法則に従って、経路をとれば、それが最小時間の経路だったというだけである。つまり、直線XC上に様々な通過点を考えて、AからBまでの所要時間を式にして微分すると、所要時間が極小となる条件式が求まる。この条件式が、スネルの法則の式と同じになるということだ。普通は、このように説明される。

しかし、量子力学的な見地からは、光は経路を探索しながら進んでいるという見方が可能である。光はすべての可能性のある軌道を試してみるのだが、実際の軌道以外の軌道同士は互いに打ち消しあうので、実際の軌道だけが残る。スリットを通過する波を考えたとき、スリットが狭い方が、スリット通過後の拡がり角が大きくなるのもこれが理由である(狭いと打ち消しあう割合が少なく、広いと打消し合う割合が多い)。(『ファインマン物理学第2巻 光、熱、波動』 1章)。

これは光の話だから、量子力学的に考えるのなら、こういう解釈もありかなと理解できる。大きな物体が運動するときに似たような法則があったとしたら、どう考えればよいのだろうか・・・。

■ 最小作用の原理

『ファインマン物理学第3巻 電磁気学』(岩波書店)の巻末には、ファインマンの特別講義を「大体話した通り」に収録した<補章>が存在する。「これは"余興"のつもりである」という前置きの後、『最小作用の原理』について講義がなされている。

ファインマンは講義の冒頭

私がハイスクールのとき、物理の先生 -Bader先生- があるとき物理の講義のあとで私をよんで言った。’君は退屈しているようだ。少し面白い話をしてやろう。’先生は少し話をしてくれたがそれは私にとって全く魅力的であって、それ以来ずっと魅力を感じている。その主題が出てくるたびに、私はやってみる。事実この講義を用意し始めたとき、いつのまにかこの問題についてさらに分析を進めていた。講義のことなんか忘れて、新しい問題にとりくんだ。その主題がこれ -最小作用の原理- である。

と述べている。ファインマンはノーベル物理学賞を受賞したほどの人なので、ハイスクールの物理の授業のときに退屈していたというのも、うなずける。さらに、ファインマンの研究業績の多くは、最小作用の原理を使ったものだが、これがハイスクールのときに聞いた面白い話しがきっかけになり、基礎になっているというのが面白い。

多くの科学者がフェルマーの原理に触発されて、似たような原理が力学的運動にもあるはずではないかと必死に探索を行っていたところ、同様な考え方をする原理が、オイラーやモーペルテュイといった天才たちによって発見されたのである。それが「最小作用の原理」である。

物体を投げたときの運動でも、振り子が揺れる運動でも何でもいいのだが、物体がA点からB点まで、ある時間をかけて移動したとする。さらに、A点からB点まで同じ時間をかけて移動する他の経路を仮想的に考える。

「運動エネルギー - 位置エネルギー」 の値を、A点からB点までの時間で積分した数値を求めると、この値は実際の経路が、仮想的な他の経路よりも必ず小さくなっている。これが「最小作用の原理」である。「運動エネルギー - 位置エネルギー 」 を時間で積分したものを、「作用」と呼んでいるので、「最小作用の原理」とよばれる。

物体が実際に通る経路は、「運動エネルギー - 位置エネルギー」の時間積分が最小(極小)となる経路であるということは、ニュートンの運動方程式 F = ma と等価である。「運動エネルギー - 位置エネルギー」をラグランジアンと呼ぶが、ラグランジアンが一般的にこの形をしているわけではなく、ニュートンの運動方程式のラグランジアンが「運動エネルギー - 位置エネルギー」の形をしているというのが正確である。

なぜこうなるのか、こういう原理が存在するのかについて、理解するには、変分原理(オイラーの方程式)、部分積分(これは高校で習う)が予備知識として必要である。

ここら辺の話は、『解析力学』の名前で出ている専門書に詳しい。「解析力学」は、以前は地味な学問分野だったらしいが、量子力学の登場とコンピュータの発達で、最小作用の法則を用いた計算がふんだんに行われるようになって、華やかな分野に成り代わった。

ちなみに、『ランダウ・リフシッツ 理論物理学教程 力学』(東京図書)は力学の教科書だが、いきなり1巻の冒頭から最小作用の法則の説明で面食らう。普通の力学の教科書と異なり、運動方程式の説明が、最小作用の法則で導入されている。少なくとも初学者向けではない。

■ 最小発熱の原理

以上の法則の類型で、最小発熱の原理が存在する。不均質な物質中を電流が流れるとき、発生するジュール熱が最小となるように電流が分布するというものである。

この法則を使って、多相系の電気伝導率、特に金属・絶縁体混合物に見られるパーコレーションなどを説明できないものかと考えている。

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コメント

ブログ主の露本様

初めまして。
物理ファンのjh6noa(YAHOO掲示板のI.D.)と申します。
光が物質中を伝播中は、物質の誘電率と透磁率の積の平行根に逆比例して速度が低下すると考えられています。
私は、重力場での光の曲がり(重力レンズ効果)と同様に、常に光速cで運動している光が電磁場で曲げられる事で、物質を構成している原子を通過する度に滑らかなジグザグ運動を行う事による通過距離が伸びる事で所要時間が延びる事となり、肉眼的には真っ直ぐ進行している様に見える為に、光の所要時間が延びる事で光の速度が低下した様に観測される事となると考えています。
幾何光学では、肉眼的な通過距離と屈折率の積としての光学的距離(光は光速)という物理量を設定して、屈折や反射の現象をフェルマーの原理を使って説明しています。

光学的距離に関する文献を探している内に、先生のブログに辿り着きました。
これまでのあやふやでばらばらな断片的な知識のジグゾー・パズルが一気に解決しました。
有り難うございました。

投稿: jh6noa | 2008年7月 6日 (日) 12時20分

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