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2008年7月30日 (水)

水とお湯を同時に冷凍庫に入れるとお湯が先に凍る -本当かウソか

「水とお湯を同時に冷凍庫に入れると、お湯の方が先に凍る」という一見信じがたい、ウソのような話がある。

発見者の名前を冠して、ムペンバ効果(Mpemba effect)と名前まで付いている。念のため、常に座右に置いてある『化学辞典』(東京化学同人)、『化学大辞典』(共立出版)、『物理学辞典』(培風館)、『理化学辞典』(岩波書店)を見てみたが、載っていなかった。

以前から、「水より、お湯の方が先に凍る」という話をトピックス的に聞いたことはあったが、深く追求しないまま、そのままにしていた。この実験が、7月9日にNHKの「ためしてガッテン」で放映されて、話題になっているらしい。

冷凍庫に、水とお湯を同時に入れた場合、お湯の方が先に凍るということは冷却条件によっては起きるようである。

東京都水道局のHPには「水のおもしろ実験<お湯が先に凍る?>」と題して、東京大学滝川洋二客員教授監修の実験が掲載されている。

このHPの実験ではコップに100mLずつ、20℃の水と60℃の湯を入れ、冷凍庫に入れている。割り箸をコップの下に2本敷いているところがポイントである。これによりコップの下から冷気が当たって、下方から冷却されるようになる。さらに重要なポイントは、水面(水の上部)が凍るのは、通常通り水の方が先だが、下から凍るスピードはお湯の方が速いところである。最終的に、全体が凍るのは、お湯の方が早くなる

私が、はじめこの実験事実を聞いたとき、ウソだと思ったが、よく考えるとあり得る話であった。

ウソだと思った根拠は、温度は状態量だから、60℃のお湯は、必ず20℃の水になってから、氷点下に冷える。60℃から冷却される途中、20℃の状態を必ず経由するのだ。だから、「60℃のお湯が氷になる」ためには、「20℃の水が氷になる」のに必要な時間にプラスして、「60℃のお湯が20℃に冷える」までにかかる時間が必要なはずである、というものだった。

もし、60℃のお湯の方が先に凍るとしたならば、「60℃から冷やされて20℃になった水」と「はじめから20℃にしてある水」が異なる状態にあることになる。これを当初、あり得ないと考えていたのだが、これら2つの液体上部から下部にかけての温度分布が異なることは十分あり得る。

以下は私の考察である。

60℃のお湯から出発した場合は、液体上部が温かいので上部(表面)は凍らないが、20℃の水は、液体上部が冷えてまず表面が凍る。一方、液体下部は両方とも、ほぼ同じように冷却され、下部からも凍る。下部から凍っていくスピードは、上部(表面)に氷がない方が速くなる。

液体の水の場合、温かい水の方が軽いので上部に移動し、逆に冷たい水は下部に集まる。いわゆる対流である。この温度分布(温度勾配)に従って、下部から凍らせていった方が順調に全体を氷に変えることができる。水の表面(上部)から凍った場合は、対流でできる温度分布に逆らって、温かいところからまず凍らせることになるために時間がかかるのである。表面にできた氷が、対流による順調な熱伝達を阻害しているためという言い方もできる。

以上の考察が正しかったら、60℃のお湯から出発しなくても、20℃の水のコップ上部を発泡スチロールか何か断熱材でふさぎ、表面が凍らないようにして、できるだけコップ下部から冷却するようにすれば、早く凍るようになるはずである。であれば、60℃のお湯から出発するのはナンセンスである。

化学工学的に式を書き下してみる。

コップは円柱型で、上面(空気との界面)、または底面(コップとの界面)における熱伝達を考える。単純化するためにコップ側面の熱伝達はここでは省略する(これは本質的ではない)。

氷の成長に伴って、水と氷の界面は移動していくが、この界面の温度は常に0℃に保たれる(過冷却は考えない)。この界面において発生する凝固熱は氷中を熱伝導で、より低温の上面(空気)あるいは底面(コップ)に逃げていく。氷の成長速度、つまり氷/水界面の移動速度は、上面、底面がよほどの低温でない限り、ゆっくりである。界面がわずか移動しただけで大量の凝固熱が発生するが、熱伝導でより低温の方向へ取り除かれる熱量が少ないからだ。

ある時点での、界面付近の氷中の高さ方向の温度分布を考える。底面(または上面)の温度をΘ、氷の厚みをX、底面(上面)からの距離をxとすると、温度θは

Eq1

0℃の界面からΘの底面(上面)まで、高さ方向に直線的に温度分布していることを示している。

さて、時間dtの間に、氷の厚みがdx増加するとすると

「凝固で発生する熱量」 = 「界面から熱伝導で除去される熱量」なので

Eq2_3

ここでρは氷の密度、Lは単位質量あたりの凝固熱、λは氷の熱伝導率、aはコップの断面積、(dθ/dx)x=Xは氷/水界面における温度勾配である。

対流の影響を考慮すると、上式の右辺にさらに対流の項が加わる

自然対流による熱伝達は、グラスホフ数(Grashof number)という無次元量の影響を受ける。この数は、液体の密度差による浮力を含んでおり、

Eq4

で表わされる。xは代表長さ、gは重力加速度、βは体膨脹係数、νは粘度、θは温度。(Wは底面(上面)、∞は遠方を表す)。

対流項に温度差が含まれていることがポイントである。液体の上下での温度差が大きいほど、対流による熱伝達はスムーズにいくことになる。

また、氷が上から凍った場合、氷と水の界面に空気の泡が入ることが多く、この空気の泡が順調な熱伝達を阻害している可能性もある。

以上は比較的単純なことだと思うが、冷却・冷凍に関する化学工学では知られていないのだろうか、未確認である。

ちなみに、上の効果とはあまり関係ないが、水を冷却して、氷に変える技術はいろいろなところで研究されている。

食品を冷凍する時も、表面から順に中心に向かって凍らせていくのではなく、全領域を同時に均一に凍結させる技術が実用化されているそうだ。わざわざ電子レンジと同じマイクロ波を当てながら、マイナス10℃にし(この状態では凍結しない)、マイクロ波の照射をやめて、一気に凍結させる技術のようである。「電磁冷凍」と呼ぶそうだ。

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コメント

私のあくまで机上の考察なのですが、これは液体の対流云々と言うよりも、熱を持つ物がそこにあることで起こる、冷気体の急速な対流現象による、熱交換の効率化だと思います。気体と液体の入っている入れ物の間にあまり温度差がない場合は、気体の動きも緩慢で、入れ物の表面上に層状に対流している気体の厚みがあつくなるので、その分断熱化されて熱交換の効率も落ちるのもあると思います。また冷えた液体は比重が重く底部にたまる訳なのですが、温度の高い部分は上部で相変わらず気体に対流を発生させるエネルギー源になっています。これらのことから推測されるに、有る程度以上に深さのある容器の方がこの現象を起こしやすいかと思われます(^^ゞ

投稿: ko | 2012年4月 6日 (金) 15時10分

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