無重力下で雪の結晶を成長させると
雪の結晶を顕微鏡で見ると、きれいな対称形をしている。6回対称、つまり6分の1回転させても、元と重なる形をとっている。正六角形が何重にも重なった形もあれば、中心から六角形の頂点方向に枝分かれしながら伸びる「樹枝状」の形もある。
雪は氷の一形態である。氷は水分子が規則正しく配列した結晶構造をとるが、その単位格子(繰り返し積み重ねると結晶になる最小単位)は正六角柱の形をしている。低温の上空で、水分子が集まって最初の正六角柱の形を作った後、六角柱の水平方向に水分子がくっついていって成長するか、上下方向に成長するか、このバランスで最終的な形が決まる。この雪の結晶の成長の様子は、上空の気温、水蒸気量(過飽和量)など様々なパラメータに左右されて、まだ定量的に完全には説明できていないようである。
地球上で空から降ってくる雪は重力に従って、落下してくるから、落下の途中で、空気中の水分子が雪の結晶に衝突し、取り込まれてどんどん形を変えていく。では、重力のない無重力状態で雪の結晶成長をさせるとどうなるかが、昔から科学的な話題になっていた。また、重力があると、温かくなった軽いものが上に、冷たくなった重いものが下に移動するという「対流」が起きるので、対流が結晶成長にどう影響を与えているかも学術的に重要なポイントである。無重力下では、対流の影響がない状態で結晶成長させることができる。
2008年12月2日の読売新聞によると、「国際宇宙ステーション(ISS)に設置された日本実験棟「きぼう」で2日、氷の結晶の成長過程を調べる初めての科学実験が始まった。茨城県つくば市の宇宙航空研究開発機構筑波宇宙センターからの指令で行われたが、見事な「氷の花」を咲かせることに成功した」とのことである。
「初めての科学実験」と記事にはあり、「日本実験棟で行われる科学実験」が初めてなのか、「宇宙環境で氷の結晶の成長を調べようとする」のが初めてなのか、この記事ではあいまいだが、少なくとも後者ではない。
1979頃の『朝日少年少女理科年鑑』という本に、無重力下でないと行えない科学実験が、小学生にもわかるように紹介されていて、わくわくしながら読んだ記憶がある。軽い金属と重い金属を混合して合金を作ろうとすると、重力があると上下に分離してしまってできないが無重力下ではできる可能性があるという話や、プラスチックだと気体の泡を中に入れて、発泡スチロールなどの発泡プラスチックが作れるが、金属の発泡体は金属が重いので、地球上では気体と分離してできない。無重力下で発泡金属が作れるのではなど。
その中に、無重力下で、雪が結晶成長するとどうなるかわかっていないという話も出ていたように思う。
それから、3年後の1982年の元旦。朝日新聞の元日特集版に、「こんど打ち上げられるスペースシャトルで、無重力下で雪を作る実験を行うことになっている。雪の結晶の形がどうなるか、皆さんで予想してください」という内容の懸賞が出ていた。私は応募したのではっきりと覚えている。何と予想したかまでは覚えていないのだが、正解者の特賞景品がNECの「PC-6001」というパソコンであった。当時、PC-8801などの上位機種が既に販売されていたので、特賞にしてはしょぼい景品だな・・・と思ったのを覚えている。
忘れた頃に、実験結果が小さく報道されていて、(無重力下では)雪の結晶はできなかった、という結果だった。雪を作ろうとしたが、雪の結晶はできず、装置の隅っこにごくごく小さい氷ができていたという話だった。しかし、これだけの結果で、無重力で雪の結晶はできないと結論づけるのは間違いであって、広い意味での実験の失敗と言ってよかったのだと思う。先に述べた懸賞では、どんな答えを正解としたのかわからないが、実験結果が明らかになった頃には、PC-6001なんて、だいぶ陳腐化して、そんな景品欲しくないという状況だった気がする。
1982年当時の実験装置の詳細は知らないが、今になって考えれば、実験装置のノウハウ不足か何かで「雪の結晶ができない」と結果も十分、ありえたと思う。
先に述べたISSでの2008年12月の実験では非常にきれいな対称性に優れている氷の結晶、すなわち雪の結晶が得られたそうである。
息の長い基礎研究だと感じた。
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