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2009年1月12日 (月)

科学的大発見、および技術的ブレークスルーのパターン

どんなときにノーベル賞級の大発見があって、波及効果の高い技術的ブレークスルーがあるのかをパターン化してみた。ただの私見。

■ 偶然の発見+セレンディピティ(serendipity)

セレンディピティとは、偶然の発見をそのままで終わらせず、その価値を正しく見出して、発展させる能力のこと。

ノーベル化学賞の田中耕一氏は、間違えてグリセリンをコバルトに混ぜてしまったことが大発見につながったし、同じく同賞の白川英樹博士は触媒の量を間違えたのが大発見のきっかけだった。人によっては、ただの「失敗」で片づけるかも知れない、偶然の結果を発展させたことによる成果だ。

レントゲンによるX線の発見(1895)も偶然である。金属に電子線を当てる実験を行っていたら、そこら辺に置いていた感光紙に、骨のかげが写ったというのが最初とされている。

電子レンジの発明も、マイクロ波を使った実験をしていた研究者が、ポケットに入れたチョコレートが溶けてしまうのを見て思いついたという。

ポストイット(付箋紙)の発明も、強力な接着剤を作ろうとしていた研究者の失敗例が元になっている。

ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士が、ニュートリノの研究を行ったカミオカンデも、もともとはニュートリノの研究をするためのものではなかった。陽子崩壊の研究をするために、とにかくノイズの少ない山の中に大量の水をためたものである。これだけ水をためれば、何個かは陽子崩壊するだろうと計画していたわけである。しかし、実際に実験を始めてみると、予想外の発光が観測されて、それがニュートリノによるものだとわかった。そこで、大幅な計画変更がなされて、ニュートリノの研究が行われることになったのである。超一流の物理学者でさえ、当初はニュートリノが観測されるとは予測していなかったところが面白い。

材料分野でも、直前に実験した人の不純物が電気炉に残っていたために、予想していなかった化合物(固溶体)ができて、特殊な機能性材料ができたという例がある。材料分野では、偶然による発見はかなり多い。

偶然の発見に頼る研究者を、むやみやたらに穴を掘って、宝探しをしている様子にたとえて揶揄する人がいるが、たいていの場合、専門的識見に基づいて、どこに穴を掘ればいいかという指針としてもっているものである。

当初の計画の通り、ガチガチに固まった研究を進めても、大きな成果を得ることは少ないように思う。

■ 仮説を立てて(予測して)、とにかくやってみる型(作業仮説型、思考が現実化型)

フラーレン(C60など)を発見した科学者は、サッカーボール型のジャングルジムで遊びながら、こんな形の分子があるはずだと常日頃から考えていたという。そう考えていなければ、測定結果に現れたノイズと見間違う小さなピークを、C60だとは思わなかったはずである。実際、別の研究者の古い測定データにはC60らしきピークがノイズっぽく現れていたらしい。C60など眼中になかったから深く追求しなかったのであろう。

X線回折を見出したブラッグBragg。X線はそれまで骨を透写するのに用いられていただけで、波長の短い電磁波であることは知られていなかった。ブラッグは何を考えてか、結晶にX線を当ててみると斑点模様が出てくることを発見した。もちろんブラッグの式が知られる前のことで、この結果からブラッグは有名なブラッグの式を導出したのである。ブラッグが何を考えて、結晶にX線を当てたのかだが、どうもエバルトEwaldと散歩しながら会話していたときに、ある仮説に至ったらしい。それまで知られていた可視光の回折では、波長が長すぎて、結晶では回折を起こさないといわれて、ピンと来たらしい。「X線は波長の短い電磁波ではないか。だとしたら、結晶で回折を起こすはずだ」と仮説を立てて、実験を行ったのであろう。

偶然の発見を、後からストーリー立てして、この発見パターンにアレンジすることも少なくない。学術としてはこのパターンの方が美しく見えるが、後々のためには正直に偶然と報告すべきと思う。

■ 人海戦術型

片っぱしからやってみて、うまくいくやつを探すというスタイル。偶然に頼るのとは違い、とにかく片端からやってみて、一番うまくいくやつを採用する。一番うまくいく要素を複数組み合わせれば技術、ノウハウとなる。

たとえば○○に用いるのに、一番、耐久性の高い材料を探せということで、素材メーカーから無数のサンプルの提供を受けてすべて試験をするなど。企業の研究所では、このスタイルで研究が進められることが多いような気がする。大学などアカデミックではこのタイプの研究はあまり見られないとようである(たぶん)。

■ 共同作業型(要素技術結集型)

たとえば、「フロッピーディスクの発明」には、外観を提案するとか、必要性能を思考上で限定するだけでなく、実際にその性能を実現するために、さまざまな要素技術が必要である。読み書きヘッドの設計、ヘッドの材質、ヘッドにつながる電気回路、ディスクの回転保持機構、ディスクの回転と同期させて読み書きする制御方法、フロッピーの磁性体の構造、磁性体の製造法、ディスクの積層構造、ディスクの表面処理法、フォーマット法など。

誰か一人が発明するというよりは、様々な分野の技術者の開発した要素技術の結集といえる。技術者同士が緊密にコミュニケーションをとりながら、進める技術開発である。日本企業が得意とするところらしい。

■ 既存のものの組み合わせ型

既存のものを組み合わせるだけで思わぬブレークスルーを得ることがある。組み合わせる技術のうち一つは新しめの技術であることが多い。赤外吸収分光(IR)にフーリエ変換(FT)を組み合わせたFT-IRなど。今はFTのつかないIRは売られていないほど、FT-IRが普及している。IRにフーリエ変換を組み合わせることにより飛躍的に性能が改善した。

■ 発想の転換型

30年くらい前、新幹線の速度の上限は時速二百数十kmといわれていた。それ以上になると車輪がレール上で空回りを始めてしまう(たとえば車輪が100メートル進む分回転していても、車両が80メートルしか進まない)というのが理由であった。

最近、「のぞみ」は時速300kmで営業運転しているし、技術的には時速360kmも可能である。フランスのTGVは最高時速574.8kmを記録している。

これには、別に車輪が空回りしても構わないじゃないかという発想の転換があったという。確かに空回りしても、車輪とレールの粘着力が完全にゼロになるわけではないだろうから加速は可能であろう。(この鉄道技術については要確認)

■ 天才のひらめき型

アインシュタインの「一般相対性理論」。量子力学黎明期におけるボーア、ハイゼンベルグ、シュレディンガー、ディラック、パウリ、ド・ブロイら。なぜかユダヤ系の科学者に多い。天才型が輩出するのか。真似をしようとすべきではないと思われる。

ちなみに一般相対性理論。何かに役に立つのかと思われてきたが、最近、理論提唱後100年にして、産業上、役に立ち始めたそうだ。GPSで位置を決める計算では、一般相対性理論に基づく計算を行わないと位置がずれる。

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