« 『新型インフルエンザ 世界がふるえる日』(岩波新書) | トップページ | 著書が4冊出ました。 »

2009年7月 2日 (木)

X線発生装置を設置しても、「放射線管理区域」を作らなくてよくなった?

昭和の頃、X線回折装置や蛍光X線分析装置など、X線を発生する装置(工業用X線装置)を研究室に設置するには、かなり面倒な手続きと管理が必要であった。

Xray_4 その面倒なことに「放射線管理区域」を作るというのがあり、「放射線管理区域」を標識で明示して、用のない者を立ち入らせず、定められた注意事項を掲示する必要がある(電離則3条)。さらに、資格のある「X線作業主任者」の選任が必要で、「管理区域」に出入りする放射線業務従事者にはフィルムバッジなどを着用させて、被ばく線量を測定しておかねばならない。これには一人当たり年間1万円弱の費用がかかる。被ばく線量の記録は30年間保存しなければならないというおまけ付きである。半年に1回、線量当量率の測定(5年間記録保存)と特別な健康診断(30年間記録保存)も必要となる。

「放射線管理区域」とは、実効線量(被ばく量)が「3月間(13週間)で1.3mSv(ミリシーベルト)を超えるおそれのある区域」である。この「超えるおそれのある」という表現が、厳しい解釈を招いていたのであった。X線装置を普通に使用している限り、外部に放射線が漏れたり、この被ばく量を上回ったりすることはないのであるが、何らかの不備が起きた時のことを想定して、X線発生装置を設置する場合には、「放射線管理区域」を作ることが求められていた。これらの管轄は労働基準監督署である。

これが1990年代前半までであった。

その後、「放射線管理区域」は、「X線発生装置」の「装置内部(試料室)」のみで、「装置内部」に人が立ち入ることはできないので、「放射線管理区域」は作らなくてよい、つまりフイルムバッジも着けなくてよいという解釈が、一部の労働基準監督署から出るようになり、なし崩し的に広まったようである。緩くなった経緯はよくわからない。

2001年には、厚生労働省労働基準局長名の基発第253号(平成13年3月30日)「労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令の施行等について」ではっきりと明文化された。(我々はこれで一安心した)

厚生労働省労働基準局長名の基発第253号(平成13年3月30日)「労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令の施行等について」

第3 細部事項3 第3条関係(6)

放射線の照射中に労働者の身体の全部又は一部がその内部に入ることのないように遮へいされた構造の放射線装置等を使用する場合であって、放射線装置等の外側のいずれの箇所においても、実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えないものについては、当該装置の外側には管理区域が存在しないものとして取り扱って差し支えないこと。ただし、その場合であっても、装置の内部には管理区域が存在するので、第1項の「標識によって明示」することは必要であること。この装置の例としては、次のものがあるが、これらの装置を使用する場合であっても、労働者に対しては、安全衛生教育等において、放射線の人体への影響、及び被ばくを防止するための装置の安全な取扱い等について周知させること。

ア エックス線照射ボックス付きエックス線装置であって、外側での実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えないように遮へいされた照射ボックスの扉が閉じられた状態でなければエックス線が照射されないようなインターロックを有し、当該インターロックを労働者が容易に解除することができないような構造のもの

イ 空港の手荷物検査装置であって、手荷物の出入口は、労働者の手指等が装置内に入ることがないように2重の含鉛防護カーテンで仕切られ、当該装置の外側での実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えないように遮へいされているもの

ウ 工場の製造工程で使用されている計測装置等で、製品等の出入口は、労働者の手指等が装置内に入ることがないように2重の含鉛防護カーテンで仕切られ、又は労働者の手指等が装置の内部に入った場合に放射線の照射が停止するインターロックを有し、かつ当該インターロックを労働者が容易に解除することができないような構造であり、装置の外側での実効線量が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えないように遮へいされているもの

つまり、実験に使うX線回折装置、蛍光X線分析装置などで、外部に放射線が漏れない構造で(3月間で1.3mSv以下)、扉が閉まってなければX線が照射されない安全機構(インターロック)がついていて、その安全装置を簡単に解除できない構造であれば、法令上、X線作業主任者は要らないし、放射線管理区域を作らなくてもよいし、出入りする作業者にフイルムバッジを着用させる必要もないということになる。ただし、標識による表示、安全教育は必要である。また、放射線管理区域の有無にかかわらず、X線回折装置など工業用X線装置を新しく設置する場合は労働基準監督署長に設置場所の届け出と書類提出が必要である。

※上記のような内容を書籍、出版物で確認されたい方は、『蛍光X線分析の実際』(朝倉書店、中井泉編集、日本分析化学会X線分析研究懇談会監修)の17章、p. 220に記載があります。amazonへのリンク

1998年の1月頃、粉末X線回折装置を実験室に設置するに当たって、技官と教授がこんなやり取りをしていたことがあった。あの時期だと、まだ上のことが明文化されていない状況で、口コミで伝わっていた段階だと思うが、「装置内だけが管理区域」は研究者の間で既に有名な話であった。

教授「X線回折装置置くのに、放射線管理区域作って、立ち入り制限しなくていいのか?」
技官「メーカに確認したんですが、今は昔と違って、管理区域は作らなくていいそうです。規制緩和で、フイルムバッジも資格も必要ないという話です。RIとは違いますので」
教授「本当か?そんな話は聞いたことないぞ」
技官「ですから、昔と変わってますって」
教授「もう一度、確認してくれ」
技官「この前もそう言われて、再確認したのがこの話ですが」

よくあるやり取りである。

|

« 『新型インフルエンザ 世界がふるえる日』(岩波新書) | トップページ | 著書が4冊出ました。 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: X線発生装置を設置しても、「放射線管理区域」を作らなくてよくなった?:

« 『新型インフルエンザ 世界がふるえる日』(岩波新書) | トップページ | 著書が4冊出ました。 »