母親の知りたい放射線の影響
知人から、放射線の影響に関して、世の中の母親の知りたがっている情報が少ないと言われましたので、下に簡潔にまとめてみます。以下に記してあるしきい線量の値は、いくら以上なら危険という値ですが、おおむね1~5%の人に影響が出はじめる線量です。
Q 放射線を浴びると将来、不妊になるのか。
A まず、不妊は急性障害で、がんなどの晩発性障害とは違います。大量に浴びた時、比較的すぐに不妊になります。ですので、遠い将来に、不妊の症状が初めて現れるということはありません。今のところ、福島では不妊の心配はいらないと思われます。
また、放射線による不妊は、しきい値のある確定的影響です。つまり、下に記した量以下の被ばくでは、不妊に関する症状は全く出ません。
女性の場合、650ミリシーベルト以上被ばくすると一時的に不妊になり、2500ミリシーベルト以上被ばくすると永久不妊になります。不妊に関しては思春期以降に被ばくする方が影響が大きい。
男性の場合、150ミリシーベルト以上で一時的に不妊になり、3500ミリシーベルト以上で永久不妊になります。ただし、不妊になるのは被ばく後、6週間後以降(精子の寿命が約40日あるため)。
以上は、女性の場合は卵巣に、男性の場合は精巣に被ばくした場合です。
余談ですが、放射線の害が余り知られていなかった昔、一種の不妊手術として、女性の卵巣に放射線を当てていたこともあるそうです。対象は特殊な職業に就く女性だったそうですが・・・。
Q 妊娠中の奇形が心配なのですが
A 妊娠15週頃までの器官形成期(様々な器官が作られている時期)に、150ミリシーベルト以上浴びると奇形発生の危険があります(この数値は放射線関係の資格試験で暗記が必要な数字です)。これはしきい値のある確定的影響なので、150ミリシーベルト以下では奇形発生の危険は全くありません。もし、150ミリシーベルト以上を被ばくする可能性があれば、妊婦は避難していると思われます。
着床前期(受精卵が子宮壁に着床する前)の被ばくでは、受精卵が死亡するか(胚死亡)、正常に生まれてくるかのどちらかになります。100ミリシーベルト以上で胚死亡の危険があります
胎児期(器官形成期でできあがった器官が大きくなる時期)では、200ミリシーベルト以上で精神発達遅滞、500ミリシーベルト以上で発育遅延、新生児死亡が問題となります。発育遅延は幼小児期の被ばくでも同様。
以上の奇形発生、胚死亡、精神発達遅滞、発育遅延、新生児死亡は、いずれもしきい値のある確定的影響で、しきい値以下では全く影響がありません。
広島、長崎の被爆者を追跡した疫学調査では、小頭症と精神発達遅滞が特に問題になっています。人間の胎内被ばくで確認されている奇形は小頭症だけで、その他の奇形は確認されていないとされています。
ちなみに、胎児の時に被ばくした人が大人になったとき、がんになりやすいかですが、広島、長崎の被爆時に胎児だった人が、ようやく、がん好発年齢に達した状況なので、まだ統計的データがそろっていないようです。これまでのところ、がんの有意な増加はないそうです。
Q これから作る子どもに遺伝的影響は?
A データが少なくてはっきりしたことは言いにくいです。遺伝的影響は確率的影響とされていて、いくら以下ならゼロになるといったしきい値がありません。被ばく量が少なければ、影響の確率が低くなるだけとされています。これから子どもをもうける若い世代はできるだけ、被ばく量を少なくする方がいいと考えます。そのような若い人が原発で危険な作業をするのは避けるべきです。
ただ、広島、長崎の被爆者を追跡した疫学調査では、被爆した親から生まれた子どもと、被爆していない親から生まれた子どもに有意な差はないと報告されています。
ちなみに、マウスやショウジョウバエでは遺伝的影響が実験で確認されていて、親とは違う形質をもつ子どもが生まれています。
人の場合、自然に起きている遺伝子突然変異率の値を2倍にするのに必要な放射線の量(倍加線量)は1000ミリシーベルト程度とされています。
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